平成29年度静岡県文化プログラムとして採択されたNPO法人クリエイティブサポートレッツが運営する障害福祉支援施設アルス・ノヴァでの「タイムトラベル100時間ツアー」。9月30日〜10月1日に開催されたツアーに参加しました。
観光家、コモンズデザイナーの陸奥賢さん(静岡県文化プログラムトークシリーズVol.5まちあるきと文化プログラム「町を読み解く多様な視線のおもしろさ」にゲストスピーカーとして出演されます。)によると、
観光は「光を観る」と書きます。
今は観光をしかける側が、必死になって「事」や「物」を光らせようと努力してます。「お・も・て・な・し」に必死になる。
でもほんとうは光は「観る側」が見つけるものです。
ある詩人はいいました。
「山路きて なにやらゆかし すみれ草」
山路の路傍に、ひっそりと咲いている小さなすみれ草。
その美しさに気づくのは、光を観るのは、「観光者自身」によるのです。
草は光りません。花は光りません。
それを光らせるのは、あなた。
あなたの心。
その言葉を心で反芻しながら、果たして自分でそんな光を見つけることができるのか、不安半分、期待半分で駅に降り立つと、なんと手作りの看板を持った利用者さんが車から出てきてお出迎えしてくれました。全く想像してなかったお出迎えに、緊張が解きほぐれるのを感じました。そうこうしながらアルス・ノヴァに到着。
最初にブリーフィングをしていただき、そこからは完全に「自由行動」なのでした。もちろん自由行動とは、何をしてもよく、興味があれば利用者と向き合うのもよし、疲れたら好きに休むもよし、自分で「自由」に決めてよいのです。
自分はまずは2階での爆音の音楽セッションをやっていたので、ちょっと顔を出してみました。楽器は壊れているわ、いろんなものが散らかり放題で面食らったのも正直事実。しかし利用者とスタッフの汗がこちらに飛んできそうなパワーに、自分もついつい打楽器を手当たり次第叩き始め、やっているうちに、何かビートのパターンを作ってみたりしながら反応を見てみたが、そんな小細工、関係ねえ、と言わんばかりにセッションは進む。そして自然とセッションが利用者とスタッフの間で終焉していく様に、レッツの「表現」の本質は、自分の思っていた「表現」とはなんだか全然違うぞ、と早速感じ始めたのでした。
言葉のコミュニケーションが成り立たず、言葉で何かを伝えようとすることは早々と放棄したが、利用者との昼食、ドライブの遠出、公園での散歩、バイク店でのウィンドウショッピング、そうしたふれあいの機会を重ねるごとに自分と相性が合う利用者、自分がもっと知りたい、と思う利用者が感覚でわかるようになる。ちょっとした二人だけのサインやジェスチャーもなんだか嬉しい。私たちと全く変わらない日常の生活が確かに存在し、私たちが無意識に縛られているルールを軽やかに越え、自分の好きなこと、「こだわり」という「表現」を貫いていく。その自由さを羨ましくさえ感じたのでした。(もちろんスタッフの細心の注意や支援があってこそでもあるのだが)
アルス・ノヴァの壁には無数の落書きがあります。通常の福祉施設では清潔にきれいに保たれる施設内は、こういった感じの落書きでぐるりと囲まれているのです。圧倒的な混沌の中の美しさを感じつつ、そこから読み取れるのは、まさに利用者の「痕跡の蓄積」でした。
平成27年度報告書「インクルージョンの起こる場」“創造的混沌、もしくは、アルス・ノヴァの「汚さ」について(長津結一郎)”によると、アルス・ノヴァのスタッフはそれを「ひとつひとつが、誰かが過ごしていた足跡であり、それが積み重なっているのである」と解釈し、それに対して長津は「どこまでが表現なのか、それは誰の表現なのか、日常は表現ではないのか。この痕跡こそが表現なのではないだろうか。」と語りました。利用者が走り回り、遊びに共に興じながら、まさに落書きを前にして、自分の価値観をも揺さぶられ、混沌の中に立ちすくむような感覚に襲われました。そんな時、ふと窓の外を見ると「普段となにも変わらない、ゆったりとした夕暮れの街の風景」が見える。そこで確かに自分は「浜松最後の秘境」にいることを確信したのでした。
次回のツアーは11月25日〜26日に開催です。ぜひあなたも価値観の揺さぶられる体験をしませんか。ツアーの詳細・申し込みはこちらから。
クリエイティブサポートレッツ「タイムトラベル100時間ツアー」
10月30日(月)午後8時よりNHK Eテレ ハートネットTVにクリエイティブサポートレッツ代表の久保田翠さんが出演!(再放送11月6日午後1時05分から)
「タイムトラベル100時間ツアー」の参加前の予習としても、そうでなくてもぜひご覧ください。
NHK Eテレ ハートネットTV「ブレイクスルー File.89 “あるがまま”を受けとめて 障害者の新しい生き方を探す 久保田 翠」