「市民メディアと地域の可能性」をテーマに、沼津市民文化センターで11月3日に開かれたトークシリーズvol.6は、地域文化の情報発信者が、地元の魅力だけでなく、地域外にも通用する普遍性も受け手に届ける必要があることを、今一度確認する場になりました。
この日のパネリストは、いずれも地方を舞台にオリジナルな仕事をされてきた3名の編集者。
「Re:S」代表の藤本智士さんは、兵庫県西宮市を拠点にしつつ、秋田県のフリーペーパー「のんびり」編集長を務めるなど「東京VS地方」という二項対立に収まらない仕事を続けてきました。千葉雅俊さんは、仙台市内のシニア世代から絶大な支持を受けているフリーペーパー「みやぎシルバーネット」を1996年の創刊以来、たった1人で発行し続けています。紫牟田伸子さんは「美術手帖」の副編集長を務めた後、全国各地でものづくり、まちづくりの仕事を展開してきました。
この日のテーマは「編集」でもありました。紫牟田さんは、編集者やディレクターとして関わった千葉県逗子市の「まちなみデザイン逗子」や瀬戸内海の男木島でのプロジェクト「漆の家」を例に、「本づくりだけでなく、ものづくり、まちづくりも編集」と指摘しました。編集の仕事を「可視化と価値化」と捉え「可視化するリスクを背負える人が『編集者』だと思う。ただ価値化するためには、それぞれのジャンルに応じて編集術を磨く必要があるのではないか」と会場に問いかけました。
藤本さんは、編集を「メディアを活用して、世の中を変えていく力」だと定義づけています。自著の『魔法をかける編集』(インプレス)は、そういう思いを込めて世に送り出したそうです。藤本さんが編集長を2012年から4年間務めた「のんびり」は、秋田県をPRするために全国各地に配布したにもかかわらず、どこにも「秋田」をうたっていません。読者が秋田について紹介した冊子だと読み終わって初めて気づいたほうが、より深い印象を与えられるからだそうです。「ローカルメディアはなんとなく読者を地元限定にしている。その“たが”をはずせばもっと広がりが出る。その“たが”をはずすのが編集の役割でもある」という藤本さんの言葉が胸に響きました。
千葉さんがたった1人で発行を続けてきた「みやぎシルバーネット」は、いまや仙台市内在住の高齢者にとってなくてはならないコミュニティーとして機能しています。読者会も発足し、東日本大震災の際は、読者の安否確認の手段にもなったそうです。ただ、千葉さんの「創刊3年目に部数が1万部から1万1千部に初めて増えたとき、言葉で言い表せないほどうれしかった」という発言から、市民メディアを独力で継続することの大変さもひしひしと伝わってきました。
それでも20年以上同紙が続いているのは、千葉さんご本人の強い意志と努力によって、紙面にある普遍性が徐々に読者に伝わっていったからではないかと思います。同紙の看板企画である川柳コーナーには、毎号100通以上の作品が掲載されています。作品を読むと、てらいのない高齢者の思いや日常の一コマが詠まれていて、宮城県民ではない自分が読んでも、思わず引き込まれてしまう何かがあります。それこそが、ローカルに止まらない普遍性なのかもしれません。
紫牟田さんは、自分たちの街にひとりひとりが誇りを持つ「シビックプライド」の普及を推進してきました。藤本さんは「自分個人が究極のローカルメディアである」とおっしゃっています。
東京VS地方という二項対立の構図を脱して、一過性ではない情報を地方から広く、そして深く発信するためには、地元の特色に頼り切らない普遍性の獲得が、かえって有効な武器になるのではないでしょうか。それが「シビックプライド」の実現にも、「自分自身がメディア」の実践にもつながる気がします。