Cliff Edge Project

団体概要

Cliff Edge Project(クリフエッジ プロジェクト)は、2013年に静岡県伊豆地方のクリエイターらによって結成されたアートプロジェクト。これまでに伊豆半島の特色ある地質遺産と、災害史のアップデートをテーマとして展覧会を開催してきた。テーマにゆかりのある場所を会場に選び、その土地の記憶や歴史を再確認し、未来の対話へとつなげることを目標としている。火山でできた半島である伊豆半島の巨大なエネルギーは、火山噴火や火砕流、地震、豪雨による土石流、洪水などを引き起こしてきた。これら大地におきる現象に目を向け、アート作品を通じて、われわれが伊豆半島の自然環境と関係を結ぶ時、より大きな視野で、暮らしや歴史を認識できるのではないか。このアートプロジェクトの意義はここにある。

ホームページ

http://cliff-edge.org

Cliff Edge Project「中心の喪失、祈りの不在」 写真;住康平

2020 年度
Cliff Edge Project 躍動する山河

Cliff Edge Project 躍動する山河は、狩野川水系大見川流域、伊豆半島中央に位置する伊豆市中伊豆地区を舞台にしたアートプロジェクト。プロジェクトでは、この土地の特異な地形と地質遺産をモティーフとし、63年前にこの地を襲った狩野川台風の災害から、時代を遡ること3200年前に噴火したカワゴ平の火山噴火までのスケールの大きな時間軸の中で、4組の参加アーティストがそれぞれにテーマを設定して三つの会場を使って作品を発表。

日時

2021年1月31日(日)~2月28日(日) 
29日間・会期中無休 9時~16時

会場

伊豆市資料館、上白岩遺跡、大宮神社

内容

美術展示、舞踏公演、ワークショップ、トークイベントなど

参加アーティスト

清水玲+磯村拓也+伊藤允彦、Cliff Edge Project、中澤美和、松岡大

松岡大「I am her」 写真;都築透
清水玲「a trace of strata」 写真;清水玲
清水玲「中伊豆俯瞰図-声字実相義」 写真;松尾宇人
中澤美和「流転山水図」 写真;住康平

担当コーディネーターのふりかえり

地形や地質をリサーチすることで生まれるアート作品。一体どんなものを想像されるだろうか。

2020年度は新型コロナウィルスに始まり、未だ収束を迎えていない。コーディネーターである私自身(京都市在住)は、京都府への緊急事態宣言を受け、実際の展示、上演を見ることができなかった。なので、写真として記録された作品と実際に立ち会えた準備のプロセスを振り返りながら、想像を掻き立ててみたいと思う。

まず、人は何の上に立っているのだろうか。

大地には地層があり、堆積物が自然史を残している。一方、人々の記憶の上に立つのが現在の営みである。

その両面からのアプローチをしているのが、Cliff edge Project の参加アーティストである。詳しくはCliff edge Projectが作成した記録集を参照いただきたいが、コーディネーターとして(新型コロナウィルスの影響により)現地へ赴く回数が少なくなってしまった伴走経験から、関心が芽生えたことを取り上げたいと思う。

一つ目は、当プロジェクトには欠かせない存在となっている、アドバイザー・松本圭司氏の発想力と行動力だ。

このプロジェクトは(新型コロナウィルスへの対応で展覧会を延期したとはいえ)始動から作品完成まで、半年以上の時間を要している。その間、参加アーティストたちが何をしていたかというと、展覧会のテーマである縄文時代の火山噴火の舞台、カワゴ平へメンバーが何度も登ったりしながら、作品制作を行なっていたようだ。その各種活動に松本氏の知見やアイデアが採用されている。例えば、松本氏が縄文期の地層から見つけた炭を、作家が画材として使うように。

二つ目は、上記に近い内容となるが、親子を対象とした日本画のワークショップで、岩絵具として伊豆の土や石も使われたことだ。オンライン上で行われたこのワークショップでは、参加者の手元に岩絵具、筆、用紙など画材一式が送られる。その岩絵具の一部として、伊豆で産出された石などを粉砕したものが用意されていた。その石の地質についても、詳しくワークショップ中に説明がなされた。

この二点は、私たちが、自然と記憶の上に立つ生き物であることを確認する絶好の機会であると考える。なぜならば、進化し尽くした文明に置かれて生きていると、自然環境や過去との連続性に隔たりを持ってしまうが、これらのものごとにより、ふと自然や過去と呼応する瞬間が生まれるからである。一見「アート」とは捉えられないかもしれないが、この瞬間を作り出す作業こそが「アート」のなせる「技」だと考える。

この「技」は、「過去」との応答にのみ有効という訳ではなく、「現在」から「未来」へ、そして「未来」から「現在」への応答へと想像力を働かせることができる。このことこそが、「アート」の醍醐味だと考える。

言い換えると、日常的に「未来」と応答する習慣や技法を身につけていない私たちは、時に絵画や彫刻、小説、映画、などの「芸術」や「表現」から、「未来」を透過させる経験をしてきたのではないだろうか。

〈「アート」を「鑑賞」して楽しむ〉だけではない、「過去」や「未来」を鑑賞者が、想像力を働かせ追体験できることを露わにさせる作品を創り出す、Cliff edge Projectの今後の試みを心待ちにしている。

(北本麻理)