浜松市根洗学園(社会福祉法人ひかりの園)
概 要
発達にゆっくりさがみられる幼児期の子どもの療育施設で、アーティストとのプログラムを通じて、施設職員の創造的取組、家族との関わりの活性化を図りながら、療育の場へのアートの導入効果を考察し、他の施設でも適用可能な手引書を作成する。具体的には、「おべんとう画用紙プロジェクト」「ワークショップシリーズ」「アーティストインレジデンス」等を通して施設での経験を外部に発信し、共有を図る。
SNS
2020年度
子育て×療育×アーティスト×わたしの関わり
~“わたしなり”の試行錯誤と発見、自信をもつためのプログラム
「子育て」とひと言で言っても、保育・療育現場、家庭、親子関係など場所や関係性ごとに変化のあるものですが、関わる人が自信を持ってその人なりの柔軟なコミュニケーションや対応をできるようになることを目的とし、ワークショップとアーティスト・イン・レジデンス(映像制作)を実施。
1.アーティスト・イン・レジデンス(AiR)
演劇家の柏木陽さんを招へいしたAiRプログラムを通じ、子育て現場に取材した映像制作を実施。療育現場に滞在して制作を進める予定でいたが、オンラインでの実施に切り替え、取材はオンラインで取材を行い、撮影時も常時オンライン接続をした状態で行うことで意見を適宜交わしながら進めた。
「sceneryシーナリー ~そんなこともあるかもしれない家族のすごし方~」
制作:浜松市根洗学園(社会福祉法人ひかりの園)
脚本、演出:柏木陽(NPO法人演劇百貨店)
出演:とみやまあゆみ、田崎葵、石本径代、小飯塚貴世江、有吉宣人、大森梓、柏木陽
音楽:片岡祐介
撮影:樋口勇輝
監修:浜松市根洗学園の先生方·保護者のみなさん
協力:NPO法人障がい児・者の学びを保障する会
支援:静岡県文化プログラム推進委員会
この映像は、2020年に浜松市根洗学園で実施されたアーティスト・イン・レジデンス・プログラムにおいて作成されました。 学園での滞在の代わりに、保護者や先生たちへオンラインでインタビューを行い、それを元につくられた子育てや保育の「技」に注目した映像作品となっています。
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2.ワークショップ
子育て中の母親向けワークショップ「ゆるゆるしてみる2020」
音楽家の片岡さんの回を除いて、すべてオンラインでの実施。
片岡祐介(音楽家)
2020年12月1日(火)、12月11日(金)
柏木陽(演劇家)
2020年12月4日(金)、12月18日(金)
川口淳一(作業療法士)
2020年12月14日(月)、2021年1月16日(土)
砂連尾理(ダンサー)
2021年1月22日(金)、2月22日(月)
親子向け音楽ワークショップ
各回1家族として、自宅と講師をオンラインでつないだ。
講師:片岡祐介(音楽家)
2020年11月
21日(土)午前・午後
2020年12月
5日(土)午前・午後
26日(土)午前・午後
2021年1月
30日(土)午前・午後
2021年2月
13日(土)午前・午後
27日(土)午後
3.座談会
【座談会】療育とアートの接点 ~ワークショップシリーズをふりかえりながら~
新型コロナウイルス感染拡大を受け、今年度のワークショップ実施方法の検討と合わせ、講師とともにこれまでのワークショップシリーズをふりかえった座談会を実施。
《担当コーディネーターのふりかえり》
親が何気なくやっている子どもたちとの日頃のやり取りを演劇の視点で切り取り映像作品を作成するプログラムと、母親と家族それぞれを対象としたワークショップシリーズの2本立てで令和2年度の活動は構成されていた。
映像制作は、日々の目まぐるしい子どもたちとの関わりの中に埋もれている子育ての技を掘り起こし、“わたしなり”のコミュニケーションや対応への肯定感を生む試みである。当初は園内にアーティストが滞在しながらリサーチを行い事業を進めるアーティスト・イン・レジデンスを実施する予定だったが、感染拡大予防を考え、リサーチ、撮影どちらもリモートでの実施に切り替えた。
日頃、発達がゆっくりな子どもやその家族に対する支援として療育を実践する根洗学園は、こうしたアーティストとの取り組みを10年以上前から続けている。その代表的なプログラムのひとつがワークショップシリーズである。今年度は親子向け、母親向けと対象を絞った二種類の実施だが、元々は一般向けに夜開催していたワークショップシリーズから派生したものである。共通するのは「コミュニケーション」をテーマにしていることと、主催者の意図をよく知っている講師ラインナップであることだ。
参加者はアーティストのファシリテートに導かれ、様々なコミュニケーションのあり方を体感するようになっている。その中で母親向けについては、子育て中の母親間の交流機会をつくることもねらいに含んでいるため市内2会場での実施を計画していた。コロナ禍への配慮で講師がオンライン参加となったが、参加者は会場に集まる形での実施にこだわった。
【座談会】療育とアートの接点 ~ワークショップシリーズをふりかえりながら~
https://obento-gayoshi.com/blog/zadankai1/
※コロナ禍による変更点や考え方を共有するために実施した座談会の記録。ワークショップ講師とともに、ワークショップ実施方法の検討と合わせて、講師とともにこれまでのワークショップシリーズをふりかえった。
(鈴木一郎太)
2019年度
わが家流子育てのすすめ ~アート×療育×コミュニケーション~
アーティストの持つまなざしや技術と、療育現場の相性のよさに着目しプログラムを展開。2019年度は、プログラム毎の対象をはっきりとすることで、それぞれのプログラムを今後先鋭化させる糸口をつくろうというねらいを設定。
1.アーティスト・イン・レジデンス
療育現場内での滞在から着想を得て、現場の人たちと共に作品を作り上げるプログラム。
演劇家の柏木陽さんを迎え、2パターンの映像作品をつくった。
ひとつは、現場の先生たちが日頃の子どもたちとのやりとりの中でなにげなく使っている技に着目した映像集だ。療育だけでなく、保育の現場との親和性も高い内容でもあり、過酷さが取り上げられることの多い保育現場に向けてエールをおくるような意味合いも読み取れる。
広く外部に対して公開できるよう、撮影に際してプライバシーに配慮して、ドキュメンタリー形式ではなく、俳優を用いて撮影をした。
もうひとつは、滞在期間を通じて一人の子を追い続け、その子の変化、周囲の関わりなどをまとめたドキュメンタリー的な長編映像だ。こちらはプライバシーの関係で公開ができないことは始めからわかっており、映像そのものの位置づけを学園内でのコミュニケーションツールとしての使用を想定していた。
その他の映像作品は、YOUTUBEの浜松市根洗学園のチャンネルをご覧ください。
【映像クレジット】
「sceneryシーナリー ~場面ごとに見る保育者の工夫~」
脚本、演出:柏木陽(NPO法人演劇百貨店代表/演劇家)
出演:とみやまあゆみ、田崎葵、柴田公代、有吉宣人、柏木陽
撮影:樋口勇輝
タイトルロゴデザイン:植田朋美(BOB. des’)
制作:浜松市根洗学園(社会福祉法人ひかりの園)、静岡県文化プログラム推進委員会
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「観察と記録」
ディレクション:柏木陽(NPO法人演劇百貨店代表/演劇家)
撮影:樋口勇輝
制作:浜松市根洗学園(社会福祉法人ひかりの園)、静岡県文化プログラム推進委員会
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2.子育て中のおかあさん向けワークショップ「ゆるゆるしてみる2」
コミュニケーションの幅広さを楽しく体感するシリーズ。おかあさんたちが少しだけ日常を離れ心や体をリラックスさせながら、日頃様々な方法で感情を表す子どもたちとやりとりする時の幅を広げるヒントをつかむことをねらいとしている。
川口淳一(作業療法士、勇輝病院リハビリテーション部作業療法科科長) 参加/7名 託児参加/5名
柏木陽(NPO法人演劇百貨店代表、演劇家) 参加/8名 託児参加/5名
砂連尾理(振付家、ダンサー) 参加/8名 託児参加/5名
片岡祐介(音楽家) 参加/8名 託児参加/5名
3.親子音楽ワークショップ
音を介したコミュニケーションや、その中で起こるさまざまな気付きを促す親子対象の音楽ワークショップ。複数家族が同時に参加し楽しむ「みんなで」と、ひと家族ごとに音楽家とセッションする「しっぽり」の2パターンをそれぞれ3回ずつ実施。ワークショップへの参加はしり込みする家族のためにコンサートも開催した。
講師:片岡祐介(音楽家)
ワークショップ参加者:のべ31家族
コンサート参加者:43名
《担当コーディネーターのふりかえり》
発達がゆっくりな子どもに寄り添い、発達を促す支援をするのが療育施設の仕事です。
子どもはそれぞれに違いがあり、親や家族の状態もそれぞれにちがいます。そのような状況を支えるために福祉制度の整備と専門性に富んだ実践が行われています。そのように整えられた専門性に対して、少し素朴で根源的なアプローチをしようとしているのが根洗学園の取り組みではないかと思っています。
ダンス、音楽、演劇の専門性をとりいれ、そこから療育・保育現場との親和性や共通項を見つけ出し、福祉の専門性をより効果的に活かせる状況をつくろうとしていると感じます。福祉の業界には身体機能の専門家として理学療法士がいますが、ダンサーも身体の専門家です。身体を使って表現すること、そのために身体に意識を向けること、周囲の空間と身体の関係性を考えること、それらは日頃の生活の中で無意識にしていたりすることでもありますが、意識的にしてみることで発見することがあるのではないか、というのが根洗学園の問いかけです。
文化芸術は人間の営みの中にある様々な物事を駆使して表現をつくりだします。丁寧に探れば、それらと社会のいろいろな分野や場面との接点や親和性が見つかるはずです。そこで見つかるアプローチは普段それぞれの所でやられていることとは別角度のアプローチかもしれませんが、だからこその発見や気付きにつながるはずです。
最近では対象をしぼった取り組みが目立つ根洗学園の事業ですが、今後も注目していきたいと思っています。
(鈴木一郎太)
2018年度
「療育とアートの混ざり合い
~多様なコミュニケーションの形~」
1.「巡業!おべんとう画用紙展」
・展覧会開催用キットレンタル
県内の保育園、療育施設や、展覧会を開催したい方々に対して、簡易に組み立てられ展覧会が開催できるキットを貸し出し、取り組みを広めていきます。
2.ワークショップシリーズ
・母親対象
お父さんたちと違って、コミュニケーションをとることへの抵抗感が少ないお母さんたちに向けては、ダンスや音楽などのワークショップを通して同じ場やアクティビティを共有することによる連帯感を生み、より踏み込んだコミュニケーションを促します。
子育て中の母親向けワークショップ
「ゆるゆるしてみる」
2018年9月20日(木)
13:30~15:00
会場:みをつくし文化センター 大研修室
「音であそぶ、音を味わう」
講師:片岡祐介(音楽家)
2018年10月5日(金)
13:30~15:00
会場:みをつくし文化センター リハーサル室
「パンクに踊る」
講師:砂連尾理(振付家、ダンサー)
2018年11月15日(木)
13:30~15:00
会場:みをつくし文化センター 大研修室
「こみゅにけーしょんって何?」
講師:柏木陽(演劇百貨店代表/演劇家)
・親子対象
子どもとともに参加し、講師のアドバイスを受けながら、日常生活の中では行わないコミュニケーション方法を試みます。親にとって子どもとのコミュニケーションを見直してみる機会とし、立ち会う支援者にとっては(普段なかなかじっくり見ることのない)親子の関係を共有する機会とも位置付けています。
親子ワークショップ
「親子で楽しむ音楽講座」
講師:片岡祐介(音楽家)
2018年8月26日(日)
13:30~15:00
「自宅でできる音あそび」
2018年9月9日(日)
13:30~15:00
「ピアノであそぼう」
2018年9月23日(日)
13:30~15:00
「デタラメ大合奏の日」
・一般対象
外部からの一般の方々、他施設職員、当園職員など誰もが参加できるワークショップをシリーズで開催。参加者同士のコミュニケーションを促す内容を主として、仕事や日常生活問わず人とのコミュニケーションが多い現場にいる方々にとっての学ぶ場とします。
3.アーティスト・イン・レジデンス
療育現場にアーティストを迎え入れ、現場との密なやり取りを重ねていく中から最終的なアウトプットを生み出します。現場の日常内に外部の視点が入ることによる気付きや、発想や創造性の刺激を促し、現場の創造性を高める狙いがあります。
2017年度
「療育とアートの混ざり合い
~ひと・もの・こと・出会いが織りなす場づくり~」
ねあらい発「おべんとう画用紙」の協働・拡散作戦
子どもが描いたおべんとうの絵を設計図に見立て、親が実際に作ってみるという「おべんとう画用紙」プログラムの拡散を狙い、まずは市内の他の現場と共に実施します。お弁当画用紙を通じて読み解く体験・お弁当づくりを通して感じ、気づいたことの比較や効果など、登園以外の機関(保育園・療育現場など)と実施することで、拡散に向けた検証の機会ともしていきます。
「やったことないをやってみる 2017」
やってみたからからこそ見える気付きに出会うためにさまざまなワークショップを実施します。私たち一人一人が何に気づき、どのように意味づけるのか、思い込みからとらわれている今を開放できれば次の一歩がはじまるかもしれません。やったことないに身を任せる体験に巻き込まれていただきたいと思います。対象は、子ども、親、親子、職員、外部の一般の方々と、それぞれの取り組みによって設定しわけています。
ワークショップシリーズ「やったことないをやってみる」
開催日程
2017年11月10日(金)
19:00~21:00
砂連尾理(振付家/ダンサー)
2017年12月8日(金)
19:00~21:00
川口淳一(作業療法士/結城病院リハビリテーション課課長)
2017年12月19日(火)
19:00~21:00
柏木陽(演劇家)
2017年2月2日(金)
19:00~21:00
片岡裕介(音楽家)
記録本作成
「福祉(療育)・子ども・地域そして アート」をキーワードに続けてきた取り組みも8年となります。“継続するからこそ見えるものがある”(淡路由紀子氏〈特別養護老人ホームグレイスまいづる施設長〉)に勇気をいただき、これまでの取り組みから生まれた、プログラムとその気付きを整理し伝えるツールとしてまとめます。
継続する中で何が見えたのか、文字化・見える化することで、知ってもらう・分かってもらう、出会ってもらう、やってみるツールにまとめていきます。私たちにとっても、取り組みの歴史を確認する作業となると共に、療育とアートの関係のよさを伝えていく際のツールとして活用していくつもりです。
アーティスト・イン・レジデンス
演劇家の柏木陽さんを子どもたちの生活の場・療育の日常に迎えいれ、表現に繋げるプログラムを実施します。子ども・職員・日々の生活・家族の関係性が何を織りなしていくかを、柏木さんと一緒に考え、模索し、創り合っていきます。これまで迎え入れてきた音楽やアートとはまた違った出会いとなる予感を感じています。
浜松市根洗学園 園長 松本知子