2019-01-13【トークシリーズ vol.10レポート】聞いて、探って、楽しむから始まるクリエイティブの芽

「山」「空き家」「地形」「移住」「まちあるき」「市民メディア」「ショッピングモール」「災害」「まちづくり」と、毎回テーマを据えて各分野の専門家をお呼びして開催してきたトークシリーズも10回目となりました。

今回は「子ども」をテーマとし、音楽家の片岡祐介さん、NPO法人「音を楽しむONGAKUの会」の池田邦太郎さん、斉藤明子さんをお迎えしました。

 

せっかく音のワークショップを実践している講師をお迎えしているので、今回は趣向を変え、親子で参加するワークショップを行いながら、そこで起こっている状況に呼応する形でトークを展開しました。

始めに、会場となった掛川で活動する文化プログラム参加団体2団体の活動紹介。

「掛川未来創造部パレット」という名前で地域部活を推し進める一般社団法人ふじのくに文教創造ネットワークを代表して中学1年生の部員のみなさんと、かけがわ茶エンナーレを展開する実行委員会から湯澤さん。

池田さん、斉藤さんが発案した、身の回りの物を利用した手作り楽器をつくり、最後に出来上がったものや、机の上にあったものを手に取って、片岡さんの呼びかけにのってみんなで合奏しました。

手作り楽器1
30年間考えに考え続けた【マリン缶】

材料:空き缶2つ、防水テープ、わりばし、シールいろがみ(装飾用)

全員同時にひっくり返したり、机に肘をついたり、頭の上に置いたり、目をふさいだり、中に入っている水が下に移動する時の音のいろいろな楽しみ方も教えてくれました。

振動が机に伝わって大きく響いたり、骨を伝わる骨伝導だったり、シンプルなものですが楽しみ方がいろいろありました。片岡さんが紹介してくれたハンガーと糸でつくった「ひとり専用」の楽器を体験した時と同じく、部屋のいたるところから「おお」とか「うわっ」とかびっくりした声が聞こえてきました。

手作り楽器2
【ビーブー】

材料:タピオカドリンクのストロー、風船、輪ゴム

手作り楽器3
簡単に作れて、破けにくくて、破けても鳴るミャンマー式【スーパー紙鉄砲】

材料:新聞折込チラシ(新聞紙など)、セロテープ

その他にも、ガーゼの袋に短くなった鉛筆を入れた楽器や、乳酸菌飲料の空き容器の楽器、空き缶、水道管、ファスナーなどの紹介があり、私たちの身の回りにはこんなに「いい音」がありました。

「すごいね!」「長年ワークショップをやってるけど、この発想は初めてだよ!」「真剣に飾り付けしてるお父さん、お母さん。輝いてますよ」など、驚いて褒めて肯定する池田さん、斉藤さんの姿がとても印象的でした。

幼児からお年寄りや障がいのある人、動物や町にあふれる音など、誰とでもセッションしてしまう片岡さん、長年小学校や中学校で音楽教諭として勤めてこられた池田さん、斉藤さんから、ワークショップをしながら、たくさんの言葉が語れました。抜粋して以下に列挙します。

池田「音楽と言われると“上手い”“下手”ってことを言う人が多いけれど、音を楽しむに“上手い”“下手”というのはないですよね。実際、音楽が下手という大学生に携帯を見せてもらうと、曲がたくさん入っていてよく聞いていたりして。どうも学校で習う音楽に苦手意識を持っている人が多いようです」

片岡「僕は打楽器を専門とするプロの音楽家ですが、子どもの頃、身近にあるものをいろいろ叩いて遊んでいたのが始まりです。遊んでいて楽しいから継続できるし上達する。専門的なレッスンを受けなければプロになれないということは全然ないです。」

池田「今は大学の児童学科で教えていますが、“音を聞くことに関して、大人より子どもの方が探求心、好奇心が働く”ということをよく言います。その点では子どもの方が優れているのです。子どもの方が上。子どもの下“under”に、立つ“stand”ということで“understand”!子どもたちの優れている点を見つけてそれを認めてあげる。僕はこのスタンスが児童理解の基本だと考えています」

斉藤「小学生のお子さんがいるご両親へ。子どもたちは学校にいる間、何をしているでしょう?友達と遊んだり、勉強していると思っているでしょう。でも子どもたちは学校でお父さんと同じようにお仕事をしているんです。クラスメートが同僚で、担任は上司。係活動の会議もあります。それに授業で興味ひかれることが出てきて、あと5分あれば理解できるのに、と思っても、時間が来たらチャイムが鳴って、短い休み時間の間にトイレに行ったり、次の授業の準備をして、考えるのをやめなくてはいけない。時間で区切られて、仕事のように学校で過ごしています。そんな中で暮らしていて、帰ってくるなり「早く宿題やりなさい」と急かされるのはつらいでしょ?だから、帰ってきたらまずは「おつかれさま。よくがんばったね」と迎えてあげてください」

片岡「僕の考えですが、学校には行かない方がいいんじゃないかと。学校に行くと、あれができない、これができないと、できないことをたくさん知らされ、自信と勇気を失うだけ。学校で教わることをそのままやってたら、僕はプロにはなれなかったと思います」

池田「小学校に入ると、子どもは他人と較べる機会が増えます。他人と較べて、“ちゃんとする”っていう期待をされることが増えるわけです。“ちゃんとする”っていうのは、社会性を身に付けるということですが、“ちゃんとして”ほしいのにしてくれない我が子にイライラしてしまうお母さんに一言アドバイス。1日5分“生まれてきてくれてありがとう”の気持ちを思い出してみてください。5分が長過ぎなら1分ずつの分割でもOK。まずは学校帰りのお子さんに試してみて下さい。365日で約30時間。30時間の“ありがとうオーラ”間違いなくは親子関係にプラスです。」

斉藤「ちなみに、音楽室は音を出す所だと思われているけれど、音を聞く場所です」

最後に参加していた男の子から質問。

―楽器をつくるために、どのように日々過ごしていますか?

池田「いろいろな音に耳を傾けて、新たな音を発見しようと日頃から意識しています」

片岡「手作り楽器は、“手で作る”と書くけれど、ほんとは“耳で作る”ということですね」

もしかすると日常生活をすごしていると、知らず知らずの内に子どもの探求心や好奇心にふたをしてしまうことがあるのかもしれません。“ちゃんとする”というプレッシャーにどれだけさらされているかおもんばかったり、安心して試行錯誤できるよう先回りせず待つことだったり、挑戦したことに驚いて認めて褒めることだったり、時には常識に縛られない発想だったり、示唆に富んだ2時間でした。

鈴木 一郎太 コーディネーター
平成9年渡英。アーティストとして活動後、平成19年に帰国。浜松市に拠点を置くNPO法人クリエイティブサポートレッツにて、社会の多分野と連携する様々な文化事業(場づくり、展覧会、トーク、人材育成、町歩き等)の企画を担当。平成25年、建築家の大東翼とともに(株)大と小とレフを設立。主にプロジェクト企画、マネジメントを担当。
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