2018-03-24「静岡県文化プログラム報告フォーラム2018」

「静岡県文化プログラム報告フォーラム2018」が3月24日、静岡市駿河区のグランシップで開かれました。静岡県文化プログラムの提案プログラムを担う県内各地の13団体が本年度の活動について報告した後、基調講演とトークセッションが行われました。

報告したのは下記13団体です。地域に根ざした魅力あるプログラムが10分間ずつ紹介されました。

かけがわ茶エンナーレ実行委員会

掛川市

(株)SBSプロモーション

静岡市

(一社)ふじのくに文教創造ネットワーク

掛川市

(株)玉川きこり社

静岡市

特定非営利活動法人 ACT.JT静岡支部

熱海市

登呂会議

静岡市

特定非営利活動法人 クロスメディアしまだ

島田市

浜松市根洗学園(社会福祉法人ひかりの園)

浜松市

松崎町「絲」concept

松崎町

Scale Laboratory

函南町

富士の山ビエンナーレ実行委員会

富士市

特定非営利活動法人 熱海ふれあい作業所

熱海市

認定特定非営利活動法人 クリエイティブサポートレッツ

浜松市

基調講演の講演者は、アートディレクターの加藤種男さんでした。加藤さんは、アサヒ・アートフェスティバルやアートNPOフォーラムなどの創設を牽引してきた民間による文化振興事業の第一人者です。

加藤さんは、「従来の文化芸術のあり方に違和感を持つ人が増え、たくさんのアートプロジェクトが全国各地で生まれている。そのため、企業メセナの運営者や公共団体も、どの活動を支援すべきか悩んでいる」と指摘しました。ゆえに、支援する側は長期的視野に立って支援先を選ぶ必要がある。有望な活動を初期から支援することで、支援する側の信用度を高められる、と述べました。その一例として挙げられたのが。静岡県舞台芸術センター(SPAC)でした。活動開始当初、これほど高い評価を受けるとは思われていなかったが、現代を映し出す鏡として古典を換骨奪胎している独自性が評判を呼び、今や全国的、国際的に評価されるに至ったと、加藤さんはSPACの芸術総監督を務める宮城聰さんの演劇活動を称揚しました。

くわえて、SPACも、この日に報告した13団体も参加するような総合芸術祭「世界茶の香りふじのくに芸術祭(仮称)」を催せば、文化交流に新しい展開が生まれるのではないか、とも提案しました。

「文化プログラムのこれからを考える」と題したトークセッションには、加藤さん、高島知佐子静岡文化芸術大准教授、垂見和磨共同通信社経済・地域報道グループ次長、モデレーターとして、太下義之三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員が登壇しました。4名の識者はまず、13団体の報告について感想を述べ合いました。

垂見さんは、松崎町「絲」concept、クリエイティブサポートレッツ、Scale Laboratoryを例に、「地域の人たちと手を組んで、町ぐるみで取り組むことが大事ではないか」と述べるとともに、文化芸術基本法に食文化が明記されたことを踏まえ、「かけがわ茶エンナーレは、茶という掛川の食文化を発信してほしい」と期待しました。

高島さんは、「自分たちの暮らしを考えている発表が多かった。(「きこり」をキーワードに山村文化の継承、情報発信を図る)玉川きこり社や『“未”被災地のための防災アートプロジェクト』(SBSプロモーション)などは、静岡県の地理的特性に基づいた取り組みだと感じた。(登呂遺跡を拠点に、現代の暮らしを見直すきっかけを生み出そうとしている)登呂会議は、縦穴式住居の画一性を疑う独自の視点が面白かった」と述べました。

伊豆半島に伝わる田楽をはじめとする伝統芸能の継承に取り組むACT.JT静岡について、加藤さんは「コミュニティが縮小すると、祭事を存続させる力が失われる。東日本大震災の被災地では、郷土芸能の担い手を女性や地域住民以外にまで広げたところもある。後継者難を抱える伝統芸能の主催者も学ぶ必要があるのではないか」と全国的な伝統芸能を取り巻く課題との共通性を指摘しました。

文化プログムのあり方についても意見が交わされました。垂見さんは、昨年の共同通信の調査を元に、県内の市町が文化プログラムにいかに積極的に取り組んでいるかを紹介しました。調査によると、文化プログラムの開催に意欲を持つ全国の市区町村が27%にとどまっているのに対して、静岡県内の市町は、満点に近い数値だったそうです。垂水さんは「知事が先頭に立って取り組んでいるからこそ生まれた数字」と推察しました。

 

高島さんは「文化プログラムは、中小企業の支援に似ている。複数年度での支援だからできることがあるし、困ったときに助けてもらえるコーディネーターがいることも心強い。文化プログラムの支援を通じて(専門スタッフが、助成を中心とした芸術文化事業への支援を行う独立機関である)アーツカウンシルを作らない理由がない」と力を込めました。

 

『アーツカウンシル アームズ・レングスの現実を超えて』(水曜社)などの著書のある太下さんは、「平昌オリンピックも終わり、2020年の東京でのオリンピック開催に向けて、文化プログラムが話題に上る機会も格段に増えるだろう」と今後の盛り上がりに期待を込めました。

今回の報告フォーラムは、今後の静岡県の文化活動の発展と文化プログラムの方向性を考える上で、非常に示唆にあふれるとても有意義な会だったように思います。

小林 稔和 DARA DA MONDE
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