2018-11-03【トークシリーズ vol.09レポート】クリエイティブな人たちが育む街の発展

9回目となる今回は、「センシュアス・シティ(官能都市)」を提唱された株式会社LIFULL、LIFULL HOME’S総研所長の島原万丈さん、文化事業プロデューサーの森隆一郎さん、Scale Laboratory代表の川上大二郎さんのお三方と共に、いろいろな事例や考えを散りばめながら心ときめく街と文化の関係について考える機会となりました。

東洋経済新報社が毎年発表している「住みよさランキング」は観測と客観に比重が置かれているため、建物や施設の充実度による評価に寄っていると、建物の間にある人の生活に言及したデンマーク人建築家のヤン・ゲールを引き合いに出しながら、島原さんは指摘しました。島原さんは、人が幸せを身体で感じる都市の魅力を測る方法が必要だろうと考え、“動詞で都市を評価する指標”として「センシュアス・シティ・ランキング」を2015年に発表しました。全国の県庁所在地と政令指定都市を対象として実施されたこの調査報告は、街で体験したことを聞く32項目のアンケートを通して、人の体感に立った街の魅力が数値として表されています。

※ちなみに、「官能都市」という言葉は、この報告書に寄稿もしている劇作家の石神夏希さんの発案ということでした。

アメリカの作家ジェイン・ジェイコブスの唱えた“都市が多様性を持つための4原則”に触れながら、センシュアス・シティに見られる多様性の状況を島原さんが紹介したことを受け、森さんからは人の関係性に関わる仕事の紹介や、そこへのアートの関わりの話が提示されました。

森さんが始めに紹介したイースト・ロンドンにあるアーコラ・シアターは、元電球工場だった建物を活用して立ち上げられた劇場であり、多様な人々が住み(周辺地域で話されている言語は100以上もあると言います)、必ずしも治安がいいとは言えなかったエリアにおいて、地域コミュニティの関係性にアプローチし根付いた劇場として知られています。また昨今では、水素燃料を使用した自家動力を使用していることにも関心が高まっているようです。

アーコラ・シアターのPR映像では、様々な人種の人が各々にとってのアーコラ・シアターとは?に答えた紙を持って登場します。そこに書かれた答えも様々で、劇場は舞台作品“鑑賞”の場だと思っていると、そのイメージからかけ離れた言葉が並んでいることに驚かされます。

劇場という意味で関連して、いわき市のアリオスという文化施設で森さんが関わられた「かえっこバザール」も紹介されました。「かえっこバザール」はアーティストの藤浩志さんが考案したプログラムですが、アリオスで森さんは、このプログラムを“文化施設に足を運ばない人たちが文化施設に集う”ために実施したということで、ある日来場したおじいさんに「ところで、ここは何をする施設なんだ?」と質問され、心の中でガッツポーズしたそうです。

どういうことかというと、文化施設では文化・芸術の公演や展覧会が開催されるもので、そのコンテンツに興味がなければ足を運ばない場所となってしまうことがよくあります。それでは、文化・芸術に関心の高い人たち、市民全体で言えばごく一部の人のための施設となってしまいがちです。それに対して、施設にいろいろな人が来られるようにするというのは、数値目標を達成するためというような後ろ向きな理由ではもちろんありません。文化・芸術が人にとって提供できる可能性をより多くの人に開くことを公共の文化施設の務めとし、より多くの人がアクセスできる土壌づくりとして必要だということが根底に考えられていたのだと思います。

森さんに質問したというおじいさんには、その施設がどんな場所か知るより前に、アリオスの提供する文化・芸術のプログラムにふれてもらえた、ということで“ガッツポーズ”があったのではないかと思いました。

そうした文化・芸術に触れたり、関わったりする機会を静岡県東部地域を主として展開するScale Laboratoryの活動紹介が川上さんからあった後に、街とアーティスト(職種に関わらず“クリエイティブな人たち”という意味合いが強かったです)についての対話が展開されました。

 

クリエイティブな人がたくさん集まる都市が経済成長している世界的な状況を鑑みた時、経済成長を考える街は、アーティストがいやすい空気感が街にあるかに目を向けることが大事になる。アーティストの交流が活発になることで、新たな物事やシーンが生まれるということは、リチャード・フロリダの提唱したボヘミアンゲイ指数への注目と関連がある話でしたし、ニューヨークの先進地がソーホー、チェルシー、ブルックリンと移り変わっていっていることにも表れていることと言えます。

一方でジェントリフィケーションという言葉があるように、目先の目的のために文化・芸術が使われてしまうこともありますが、そこからの更なる学びを活かした事例もいくつか森さんから紹介がありました。

クリエイティブな人たちの交流、街との交流が活発化していくことで、社会とアートの関係を新たに導き出していく「その途中にいるなと思っている」と言っていた川上さんの言葉には力強さを感じました。

ここでは紹介しきれない、とても濃いトークとなりましたが、ご来場いただきありがとうございました。

このページの一番下にトークの中で触れられた言葉や名前を紹介するリンクリストを掲載しておきます。

次回トークシリーズは、1月13日(日)に掛川市で開催いたします。

 

静岡県文化プログラム トークシリーズvol.10「子どもと文化プログラム」

ゲスト:

片岡祐介(音楽家・即興演奏家)、池田邦太郎・斉藤明子(NPO法人「音を楽しむONGAKUの会」)

静岡県文化プログラム事例紹介:(一社)ふじのくに文教創造ネットワーク、かけがわ茶エンナーレ実行委員会

 

詳細は以下のリンク先をご覧ください。

https://artscouncil-shizuoka.jp/bunpro/info/talk_vol10/

用語紹介リンク

鈴木 一郎太 コーディネーター
平成9年渡英。アーティストとして活動後、平成19年に帰国。浜松市に拠点を置くNPO法人クリエイティブサポートレッツにて、社会の多分野と連携する様々な文化事業(場づくり、展覧会、トーク、人材育成、町歩き等)の企画を担当。平成25年、建築家の大東翼とともに(株)大と小とレフを設立。主にプロジェクト企画、マネジメントを担当。
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