COLUMN

いっぷく

文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。

vol.21

文化芸術を通して発露される回復力

(プログラム・コーディネーター 立石沙織)


熱海という地域に、どんなイメージをお持ちだろうか。私にとっての熱海は、高校時代の友人との卒業旅行で湯当たりをして寝てばかりだった思い出の場所である。そんな熱海に、静岡県文化プログラムのアシスタント・コーディネーターになって改めてご縁をいただき、今では県内でもっとも足繁く通う場所の一つになった。

 

この静岡県文化プログラム時代にはここ熱海で、就労継続支援B型作業所である熱海ふれあい作業所によるラジオ企画アートプロジェクトの企画立案を学ぶスクールプログラム「Meets by Arts」地元在住の音楽家が中心となって企画する「熱海未来音楽祭」など、多彩なプログラムが生まれてきた。今では団体同士つながりあいながら、足りないところを補うような連携もできつつあり、「熱海は熱い街」というのが私の印象である。

 

熱海サンビーチに現れた「熱海未来音楽祭」の未来への扉

 

今年度アーツカウンシルしずおかの「文化芸術による地域振興プログラム」では、ここ熱海で活動する2つの団体の支援を担当している。今回のコラムでは、そのうちの一つ「熱海怪獣映画祭」を紹介したい。

 

熱海怪獣映画祭は「熱海を怪獣の聖地に」をキャッチフレーズに、2018年から映画祭を開催している。

熱海に映画館はない。けれども、日本有数のロケ地として名だたる映画作品を排出してきた。中でも「キングコング対ゴジラ」(1962)や「大巨獣ガッパ」(1967)など、「怪獣」にゆかりある作品が数多く生まれている…そんな特徴に目をつけた人々が、とある”伝説の”飲み屋に集い、夜な夜な語り合って立ち上げたのが熱海怪獣映画祭である。

 

一番の魅力は、市民有志による手づくりの映画祭だということだろう。「熱海」「怪獣」「映画」のキーワードに惹かれて集まった人々が、経済的な利益よりも活動の面白さによってつながっている。その枠組みはとてもゆるやかで、皆が皆、自分自身の関わり方を無理なく実現している(ように側からは見える)。

運営メンバーは年々増えており、熱海怪獣映画祭という認知度も少しずつ広がっている。一体どんな塩梅でここまで運営を継続してきたのだろうか。

 

その正体をつかむため、10月中旬に運営メンバーのみなさんと一緒に、「熱海怪獣映画祭の成功の姿とは?」をテーマに、各自が思い描く理想像を絵にして共有するワークショップを行った。運営メンバーは、第1回から参画しているベテランもいれば、「今日が初めて」というニューカマーまで実に様々。この枠組みの「ゆるさ」が、風通しのよいコミュニティを作っているのだと実感する。

「絵なんて描けないよ〜」と戸惑う声はあったものの、BGMに伊福部昭氏の「怪獣大戦争マーチ」が流れはじめると、メンバー一同、模造紙に向かって黙々とペンを走らせていた。

 

 

完成した熱海怪獣映画祭のサクセスビジョンマップ

 

多種多様なキーワードが可視化された中で特に印象的だったのは、

 

「未来のクリエイター」、「子どもの夢が広がる」、「楽しい人生のための循環」

 

というように、映画祭を通して子どもたちが楽しめるような環境をつくる姿に、多くの票が集まっていたことだ。

怪獣の聖地を目指すことは「今」を楽しむためでもあり、より良い「未来」をつくるためでもある。「怪獣」や「映画」を切り口にさまざまなクリエイターが集まり、コラボメニューをはじめとする地元も巻き込んでいく仕組みによって、熱海を文化発信の基地にしていく。運営メンバーの発言からはそんな長期的な視点を垣間見ることができた。

ちなみに、第2回から継続的に実施している全国公募の「新怪獣お絵かきコンクール」では、今回は全国各地から老若男女さまざまな年代の参加者から、前回の4倍を超える数の作品の応募があったという。熱海怪獣映画祭は年に1回まちを盛り上げるお祭りであると同時に、観光地・熱海の魅力のひとつとして「怪獣」を根付かせていこうとする、地道で堅実な活動なのである。

 

今年は昨年から続くコロナ禍だけでなく予期せぬ自然災害にも見舞われたことで、第4回開催可否の判断は団体にとって非常に難しい問題であった。

でもそこで立ち止まり考えるのは、「怪獣」の存在だ。彼らは一切の理由もなくまちを破壊していく厄介者だっただろうか。海底に放置された核燃料を餌に進化したと言われるシン・ゴジラのように、時代を生きる私たちに目の前に突如として現れ「今大事にすべきことは何か」を問いかける存在でもあったのではないだろうか。転んだキズがやがてカサブタとなって癒えていくように、私たちが生まれながらに備えているはずの「レジリエンス」、すなわち「回復力」や「弾性(しなやかさ)」を今こそ発揮し、未来のにむけて今できることにコツコツと取り組む重要さを、怪獣たちが語りかけてくれる。と、私は信じている。

 

第4回熱海怪獣映画祭は、2021年11月21日(日)から23日(火・祝)の3日間、元々は映画館の建物だった国際観光専門学校熱海校を会場に開催される。熱海を舞台にした怪獣映画や、今こそ観たい作品など、とても魅力的なプログラムが揃っている。現在、この活動を応援してくれる企業や個人を募集しているので、ぜひ多くの方のご支援いただけたらと思う。

 

 

定番の怪獣ポーズで、記念写真(撮影時のみマスクを外しています)
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