文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。
いっぷく
vol.16
きっかけとしての「旅」
(プログラム・コーディネーター 立石沙織)
アーツカウンシルしずおかでは、新しく「マイクロ・アート・ワーケーション」を立ち上げ、この事業に参加してくださる団体・グループやアーティスト等の公募を行っています(9月21日現在)。
今回のコラムでは、なぜこの事業を立ち上げたのか、そこにまつわる思いを記してみようと思います。
「マイクロ・アート・ワーケーション」とは、アーティストやクリエイター等が「旅人」となり、静岡県の各地域で約1週間のワーケーション(ワーク+バケーション)を行う企画です。
静岡県には、伊豆半島、東、中、西のそれぞれに山があり、海があり、川があり、日本一の高さを誇る富士山と、日本一の深さを持つ駿河湾もあります。
こうした自然に折り重なる歴史、暮らし、文化など、豊かな地域資源をアーティストのみなさんに存分に体感いただき、今後の創作活動に活かしてもらおうと企画しました。
実はこの中で最も大事にしたいのは、地域の人々とアーティストの出会いをつくること。
アーティストの支援としてはもちろんですが、同時にアーティストを受け入れる地域にとっても、⼈と⼈の新しいつながりが生まれ、今あるコミュニティに何らかの刺激がもたらされることを期待したいと考えています。
だからこそ今回は、地域で活動する団体やグループの中で「ホスト」を公募し、アーティスト(旅人)と住民の橋渡し役を担っていただくことにしました。
その土地でホストが培ってきた知見やネットワークを通じて、地域の魅力も課題もありのままに見るという経験は、アーティスト(旅人)にとっても思考を深める貴重な機会(ワーク+バーケーション)になるのではないでしょうか。
ぜひ旅人には、その土地ならではの資源を支える人々と出会い語りあう機会を大事にしてもらいたいと思います。
私(筆者)は、アーティストとは「自分自身を起点とした思考や視点で、新しいモノの見方や解釈を提示する人たち」であると考えています。
日頃、私たちは「誰か」の視点で物事を考える機会が多いと思いませんか。例えば、友人や家族との関係において、相手の立場や気持ちを優先して考えたり、仕事ではターゲットを絞ってペルソナを作り、事業が顧客にどのように享受されていくかを考えたり。
一方で、アーティストの表現活動には「ターゲット」がありません。アーティストは、自分自身という価値基準(軸)を持ち、その中で生まれる思考や、他者や社会との関係について語ろうとします。この軸のあり方が、多くの人にとって「アーティストはよくわからない」と言われる所以であり、でも時に「でも、ちょっと面白そう」といった期待感につながる核になるのだと思います。
普段の生活では見過ごしがちな視点や、今はまだ可視化されていない価値を提⽰し、私たちには思いもよらなかったような問いを投げかけるアーティストたちの旅が、「地域」と「アート」が出会う”きっかけ”となり、次の”何か”につながっていくことを期待しています。