COLUMN

いっぷく

文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。

vol.39

地域とアートの小さな出会い

~昨年の「マイクロ・アート・ワーケーション」を振り返って

(プログラム・コーディネーター 立石沙織)

アーティストはよくわからない生き物

昨今の地域芸術祭等の台頭により、数十年前に比べれば、私たちの生活とアートの距離は非常に近くなったように感じる。特に地方創生や地域活性などの文脈において、都心部はもとより中山間地でもアーティスト等の「クリエイティブ人材」がいわば“異邦人”として外からの視点を持ち込んだり、今まで気づかなかった地域の魅力を表現して発信したりするなど、その活躍が期待される声を聞く。

けれども、それはたった一部の人々の感覚であって、そう思っていない人が大多数であり、「アートやアーティストはよくわからない」といった声も根強くあることを日々感じている。

それはなぜだろう。そこには、アートという存在自体は認識していても、「よくわからない」や「誰かの趣味趣向」といった見えない壁や溝があり、その距離感がアートを孤立させているのではないかと私は考えている。

ならば、地域とアートが協働する手前で、まず互いを知る機会を設けてみたらどうだろうか。これが昨年度アーツカウンシルしずおかが立ち上げた「マイクロ・アート・ワーケーション」の経緯である。

地域住民とクリエイティブ人材とが出会うきっかけをつくる

「マイクロ・アート・ワーケーション」は、通称「MAW(マウ)」と呼んでいる。

MAWは、静岡県内で活動する団体が「ホスト」になり、クリエイティブ人材を「旅人」として1週間程度受け入れ、地域住民とクリエイティブ人材とが出会うきっかけをつくる事業だ。昨年度は県内全域で16団体のホストと14都道府県から64名の旅人の参加が決定した。アーツカウンシル主催のオリエンテーションをホストごとに実施した後、2021年11月から翌年3月の間で、旅人が3泊4日~6泊7日でホストの活動エリアに滞在。コロナ禍により予定通りの実施に困難な状況も生じたが、最終的には61名の旅人の滞在が実現した。

滞在中の旅人たちは、ホストによる地域の案内と地域住民との意見交換会への参加が決まっているが、そのほかは基本的に自由散策となっている。偶然性に身をゆだねるタイプ、事前のリサーチで地域に対する視点をある程度定めてから行動するタイプ、何もしないと宣言するタイプなど、実に多様なふるまいがあったことが驚きだった。

また、それぞれのふるまいの中から見えてくる景色の違いも新鮮であり、同じ時期に同じ風景を見ていても、捉える対象の焦点が微妙に異なることで、彩度や感度が変わるということを実感する。

焼津のマイクロ・アート・ワーケーションのようす(みんなの図書館「さんかく」にて)

大事なのはモノ(作品)ではなく思考の面白さ

本事業は、旅人に作品等の成果物は求めておらず、noteを使った発信を条件としている。

なぜなら、表現活動が生活の一部であるクリエイティブ人材にとって、日々の出会いやその先で得られる情報や経験はすべて大事な資源であると同時に、そこから何を生み出すかはあらかじめ想定するものではないからだ。

クリエイティブ人材は既存の概念に異なる視点を見出し、私たちが予期せぬ問いを投げかけ、新しい価値を提示することがある。第三者からみれば想定以上なことも期待外れなこともあるが、その「予期できなさ」こそ魅力であり、その姿に心動かされた人々の内側で化学反応が起きることもある。

私はクリエイティブ人材がもつ物事を何か別のものに見立てたり、別の文脈に乗せてみようとしたりする思考が、私たちの暮らしはもとより、地域社会をより良い方向へと向かわせるキーになるのではないかと考える。だからモノ(作品)ではなく思考の面白さを伝えることが、MAWの意図するところなのである。

松崎町観光協会のnoteより

地域と旅人の橋渡しを担うホストの人々

ホストは期間中、旅人に対する地域案内や、彼らのリクエストに応じた地域情報の提供、地域住民と旅人の意見交換会のセッティング等、地域と旅人の橋渡しとなる重要な役割を担った。

前回参加してくれた団体は、まちづくりや観光、移住促進など、活動目的も規模も様々で、アートとは異なる他分野の人々が、アートやクリエイティブ人材になにがしかの期待を寄せ、手を挙げてくれたことは、アーツカウンシルしずおかにとって大きな発見であった。

そのうちの一つ、浜松市で活動する「天竜四季の森」と連携して、旅人の受け入れをしてくれた山里いきいき隊(地域おこし協力隊)のレポートが印象深い。

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龍山に住むおかあさんたち「ドラゴンママ」と、旅人の市川まや氏(ドラゴンママのお店「よらんかね」にて)

「龍山に来て、満足していただけるだろうか」

最初に抱いた想いです。でもそれは杞憂でした。龍山は、限界集落なんかじゃない。まだまだ戦える。まだまだできることがある。今回、MAWに取り組んで、本当によかったです。アーティストのみなさんの日々のリアクションや毎日のnoteに、どれだけ勇気づけられたことか。

今回、(アーティストには)かたちとしての成果物は求めない、ということでした。非常にふわふわしたプロジェクト。一般の完成とはきっと違うみなさんが、こんな田舎にきて、しかもなにかつくるわけでもない、、、化学反応とは、その土地に来てくださったアーティストや向かい入れた地域の人々の中に起こるものでした。それは気持ちなのか、誇りなのか、意思なのか。言葉にすると稚拙に感じてしまいますが、今回のMAWでは、そこに気づくことができました。

「龍山、すげえだろ!」と。

※ホストによるレポート:天竜四季の森「MAW振り返り – まだまだ戦える」より

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一期一会が相互の学びに

ホストや地域住民は、クリエイティブ人材の魅力を知り、彼らが持つ独特な発想に触れた。そこで生まれた種の一部は、ホストの活動自体を洗練させるヒントになったり、地域の方で「自分も何か始めたい」と思う気持ちに火をつけたり、地域で新たなプロジェクトが動きはじめたというところもある。

そして、クリエイティブ人材もまた、地域づくりに取り組む人々の思いを知ることで、地域社会の在り様を学んだ。そこでは、静岡という地を初めて訪れ、その土地の人々の話をもとに、新たな創作の種を見つける人がいたり、自分自身の制作の在り方を考え直す機会を得たりした人もいたようだ。今もなお地域との縁が続いていて、何度か自主的に足を運んでいるという人もいる。

つまり、各地で実現された出会いの中には、立場の異なる人々が同じ地域を見つめながら交わした「対話」があった。この対話こそ、本事業最大の成果に他ならない。そこにはきっと地域の可能性を広げる種が蒔かれたはずだ。

今年は一体どんな出会いがあるだろうか。そこにどんな種が蒔かれ、芽吹くだろうか。それを今から楽しみにしている。

三島でのマイクロ・アート・ワーケーションのようす(三島クロケットにて)
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