COLUMN

いっぷく

文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。

vol.68

第4回MAW茶会レポート ゲスト:していいシティ安藤智博さん

(プログラム・コーディネーター 立石沙織)

マイクロ・アート・ワーケーション(MAW)のその後をゆるゆると追いかけるインスタライブ、「MAW茶会」。今回は、11月9日(木)の安藤智博(していいシティ)さんとのお話をお届けします。


安藤智博(していいシティ)さんについて

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安藤智博(ちひろ)さん

安藤さんは大学で都市開発を専攻し、卒業後は大学職員やシンクタンクの特別研究員(デザインリサーチ)、東大i.schoolを経て独立し、2021年秋にアーバニストユニット「していいシティ」を立ち上げ、「都市」を起点とした作品制作やプロジェクトを手掛けています。
 
「していいシティ」は、都市研究とその実践に取り組むユニットで、ある時「都市はもっと色んな人が使いこなせていい」と思ったことが発足のきっかけと安藤さんはいいます。
「していい」との言葉のとおり、誰もがもっとやりたいことを自由にできる、挑戦できる都市、そんなイメージでしょうか。

それぞれが都市のなかで「していい」ことを拡張していくために、「どんな新しい一歩が踏み出せるのか?」そんな問いを立て、まちを歩き回ったり、共に生活したり、対話を繰り返しながら検討と実践を重ねているそうです。


していいシティの『gapcap(ギャップキャップ)』という試み

最近では「都市の休息」に関心を寄せているという安藤さん。
「していいシティ」としての代表的なプロジェクトである『gapcap(ギャップキャップ)』は、都市の中で自分が「心地よい」と感じる場所で見つけたモノを小さなビンに詰め、集まった人たちと一緒にその都市や地域について語るという、ワークショップ型のプロジェクトです。

一大観光地である京都を訪れたときに、地元の人々と会話を交わした中で、自分自身の観光客的な視点や都市の捉え方に興味が湧き思いついたプロジェクトとのこと。

表面的にはルールが見えなかったり、踏み込めなかったりする地でも、自分が「心地よい」と感じられる場所はあるのだろうか。
自分たちはここにいていいのか、悪いのか。
このようなモヤモヤした感覚をほぐしていくために安藤さんたちが目をつけたのが、「お気に入りの場所を探す」ということだったのです。
 
その後も、東京・渋谷で展開し、都市ごとの違いにおもしろさを感じ、もっと他の地域でも実践してみたいと思っていた矢先、目が止まったのがMAWの旅人公募だったようです。


安藤さんとMAW、吉原とのこと

MAWは、静岡県内外のアーティストをはじめとするクリエイティブ人材が、たった1週間、特定の地域に滞在し、その地域の人と出会ったり、交流したり、地域の魅力を発見したりするプログラム。成果物としての作品制作は求めていませんが、クリエイティブ人材は言葉や写真など日々の記録を行うことを条件としています。
普段から人との相互交流やまちの見方・視点を更新しようとしている「していいシティ」の活動と通じるところがあったのかもしれません。

安藤さんが富士市吉原商店街周辺を選んだ理由は、自然に近く(なんといっても吉原は富士山が近い!)、人との距離が近い商店街に魅力を感じたから。 
滞在期間中、ホストの吉原中央カルチャーセンター(YCCC)の協力により、商店街の一角で『gapcap』を実施することができたそうですが、地域に根付いて活動するホストのコーディネートのおかげで、多様な世代や国籍の人々が参加してくれたようです。
この吉原商店街での『gapcap』では、「これまでは“土地性”がビンに詰められたモノの違いを生むと思っていたけれど、吉原では参加する人の世代や背景によってまちを見る視点に差異が生まれるんだということを身をもって実感できた」と安藤さん。
参加した子どもたちの躊躇ない振る舞いが、安藤さんにも新鮮な発見をもたらしたようです。


都市と人の調和はいかにして実現できるのか

「都市」というと、大規模な市街地を想像する人も多いかもしれません。
アーツカウンシルしずおか風に言い換えるなら、
「都市」=「地域」や「まち」でしょうか。

まちへの誇り(シビックプライド)というと、咄嗟に身構えてしまうかもしれないけれど、「していいシティ」の『gapcap』は、小難しそうな命題は横に置き、「何を詰めてもいい(してもいい)」という空っぽの透明な小ビンが手渡されるだけ。
ビンを手にした瞬間のワクワク感が、その人ならではの純粋な「心地よい」とか「ここが綺麗」といった愛着心を引き出して、自然とまちを見つめ直す機会をつくりだし
ます。
吉原の『gapcap』に立ち会った、アーツカウンシルしずおかのMAW担当、若菜コーディネーターも「みなさんの私的な話を通してまちの解像度が上がり、いつの間にか私も吉原商店街が好きになっていた」と話していました。


ホストYCCCが新たに立ち上げた「HELLO YOSHIWARA」

安藤さんの受け入れを担当した地域側のホストYCCCは、MAWで出会った「旅人」たちに刺激を受けて、今年度「HELLO YOSHIWARA〜吉原商店街に出会おう!〜」を新たに立ち上げました。

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これは、吉原商店街でお店や事業を営む店主に、アーティストが1組ずつマッチングされ、店主が主役となった作品を制作してみるというアートプロジェクト。

「地域の人の『こういうことに興味があるんだよ』や『こんなものが好きなんだよ』という人柄をアーティストと一緒に深掘りして、それを作品化して世に出していくと、“すげーおもしろい人がいっぱいいる吉原”が見えてくるんじゃないか」と、YCCCの田村さんと瀧瀬さん。
例えば一人の店主さんは、吉原が「おまち」と呼ばれていた最盛期に青春時代を過ごした方。当時の名残は、今のまちにもうほとんど残ってはいないけれど、その人の中に脈々と蓄積されていくまちの記憶をその人の世界観として伝えたいと、今年9月には店主企画のまち歩きツアーも開催しました。

店主の思い出を聞きながらまちを歩くと、歩いている場所と、店主の話とが重なり、今、目の前に見えている風景だけではない景色が立ち現れ、まちが立体的に見えてくる。安藤さんはそういった「表面だけではない物事のまわりやその奥まで見てみたい」と語りました。

そして、そんな人(アーティスト)たちに刺激され、店主自身もあれこれつくりたい意欲が湧いてきてアーティストになり始めている、、そう!
ぜひ、みなさんにも吉原商店街の人のおもしろさとアーティストの視点のおもしろさを実感してほしいなと思います。

HELLO YOSHIWARA〜吉原商店街に出会おう!〜
会期:2024 年1 月12 日(金)〜1 月28 日(日) 11:00〜20:00
   ※月曜休・最終日のみ18:00閉場
会場:静岡県富士市吉原2-9-25(旧「ライフエレクトロニクス岳南」)
   +吉原商店街エリア各所
入場料:無料
参加アーティスト:
 安藤智博(していいシティ/アーバニスト)
 郡司淳史(郡司塾)
 Nozomilkyway(イラストレーター)
 三木麻郁(美術家)
主催:吉原中央カルチャーセンター(YCCC)

YCCC公式サイト:https://www.yccc-fuji.city/hello-yoshiwara


ほんの少し変わるかもしれない“未来”にかけてみる


最後に、YCCCのお二人は「アーティスト1人いるだけで、まちの空気は変わる」と続けます。

「何もない」と思っている地域ほど、たくさんある。
ふらっと地域に来た「旅人」たちは、一見遊んでいるようにも見えるけど、見えないところから何かを見出そうとする。
彼らは勝手に“それ”を見つけていってくれる、面白がってくれる。

一体“それ”がどんなものになるかはまだわからないけれど、ほんの少し変わるかもしれない“未来”にかけてみよう。

MAWをこれから体験いただく地域団体(ホスト)のみなさんには、そんなちょっとした冒険心を持ってもらうことを期待したいと思っています。

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MAW茶会恒例!記念スクショ
アンドゥ、田村さん、瀧瀬さん、ありがとうございました〜!
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