RESEARCH and PROPOSALS

調査研究・提言

高齢者の文化芸術振興に関する提言書

アーツカウンシルしずおかは、高齢者の文化芸術振興に関する提言書を公開します。

アーツカウンシルしずおかは、設立初期から高齢者の表現活動を「超老芸術(ちょうろうげいじゅつ)」と名づけ、その発掘と紹介を続けてきました。今回公開する提言書は、これまでの高齢者向け事業や調査研究で得られた知見に基づき、高齢者の健康寿命の延伸に役立つ文化芸術の関わり方についてまとめたものです。

静岡県では高齢化が急速に進んでおり、2024年には65歳以上の高齢者人口が約110万人に達し、高齢化率は過去最高の30.7%を記録しました。2035年には県民の3人に1人が高齢者となる見込みです。

一方、静岡県が県内18歳以上の男女700人を対象に実施した「令和6年度 文化に関する意識調査」では、文化芸術活動が自身に与えた効果を問う設問に対し、70歳以上の回答者で最も多かった回答が「家族や友人と感動を分かち合い、交流が増えた」(14.4%)でした。この結果は、文化芸術が高齢者の社会的関係を促進する有効な手段であることを示唆しています。

こうした背景から、文化芸術の活用が高齢者の社会関係づくり、自己肯定感の向上、生きがいや目標の発見に有効であるとし、提言書に以下の7つの提言をまとめました。

高齢者の文化芸術振興に関する提言書

提言1
高齢者自らが主体的に文化芸術に関与する機会を

高齢者が主体的に文化芸術活動へ関与するために、文化施設や地域の拠点において、高齢者が気軽に集い、参加できる環境の整備を望む。高齢者が自ら表現したり、他者とコミュニケーションを図ったりすることができるような「参加型」「共感型」の文化芸術活動を展開することで、心身の健康の維持・向上や社会的孤立の防止につながることを期待する。

提言2
高齢者を対象にした対話型鑑賞プログラムの充実を

高齢者が過去を語る機会は減っているが、それは自我の統合に重要であり、対話型鑑賞は高齢者の自由な表現や回想を促進し、心身の健康に寄与する。文化施設や高齢者施設での対話型鑑賞の機会を広げ、ファシリテーター派遣など支援体制の充実を求める。

提言3
高齢者施設等で文化芸術活動の導入を

高齢者が過去を語る機会は減っているが、それは自我の統合に重要であり、対話型鑑賞は高齢者の自由な表現や回想を促進し、心身の健康に寄与する。文化施設や高齢者施設での対話型鑑賞の機会を広げ、ファシリテーター派遣など支援体制の充実を求める。

提言
超老芸術の認知拡大を

高齢者による独創的な表現である「超老芸術」は生きる力を高める。展覧会やメディアなどでは注目されてきたが、県内での認知度は低い。より多くの高齢者の創造性を引き出すため、「超老芸術」の普及と、県内美術館などで高齢者が作品発表できる場の拡充を求める。

提言
高齢者が自らの人生を語ることを起点にした取組の普及を

要介護高齢者も含めた支援では、生きる意欲を支えるつながりの回復が重要となる。そのためには、対話型鑑賞に加え「ナラティブ・アプローチ」による高齢者が人生を語ることへの支援が有効となる。具体例として「聞き書き」や「人生紙芝居」などがあり、これらは被介護者や家族の自己理解やコミュニティ形成に寄与する。地域の記憶を次世代へ継承し、敬老精神の醸成にもつながるため、普及推進を望む。

提言
オンデマンド交通の充実を

免許返納後の高齢者の移動手段が不足し、文化芸術へのアクセスが一層困難となっている。実施したアンケート調査では「移動手段がない」ことが文化芸術活動に参加しない大きな理由となっていた。全国的に敬老パス見直しの動きもある中、予約型の乗り合い公共交通(オンデマンド交通)の導入例はあるが、まだ十分ではない。文化芸術利用促進のためにも交通サービスの充実が急務となる。

提言
文化芸術の活用による高齢者支援と健康長寿の推進を

約8割の高齢者が文化芸術活動に「生きがい」を感じており、精神的充足や生活の質向上に寄与している。高齢者医療費の増加を踏まえ、予防医療や医療提供効率化が求められる中、文化芸術を活用した健康長寿推進は重要な施策である。高齢者の社会参加や認知症予防にも効果が期待され、文化芸術の役割を一層強化することが必要となる。これらを通じて、高齢者の生きがいや地域での健やかな暮らしを支援し、静岡県の「幸福度日本一」実現に寄与していきたい。

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