文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。
いっぷく

vol.94
レポート公開:社会的処方としてのアートプロジェクト
(アーツカウンシルしずおか)
薬ではなく、地域活動や交流といった「人のつながり」を処方し、健康や幸福感(ウェルビーイング)の向上を目指す「社会的処方(Social Prescribing)」という取組があります。イギリスで1980年代に始まり、現在では国民保険サービス(NHS)の長期的計画の中核に位置付けられているこの取組は、医療費の抑制や、孤独や孤立といった医療だけでは解決できない課題の増加を背景として広まっています。日本においても、2020年の骨太の方針(p.32)で孤立・孤独対策の一つとして社会的処方が位置付けられています。
我々がアートプロジェクトを地域の振興に資すると位置付けているのは、アートプロジェクトが他者との関わりとともに、人を刺激し変化のきっかけが生み出されるためです。こうした特性と社会的処方の親和性を指摘し、連携のための位置づけを提起するため、2025年度「東部・伊豆地域文化ネットワーク形成準備事業『F_P polytope』」の中で実施したインスタレーション作品制作の取材をもとにしたレポートを公開します。

<レポート要約>
社会的処方としてのアートプロジェクト:ウェルビーイング実現のための基礎資料
ー200mの紙を用いたインスタレーション作品制作プロセスから探るー
執筆:神田未和、アーツカウンシルしずおか
本レポートでは、アーツカウンシルしずおかが実施した「F_P polytope」における市民参加型の作品制作(poly_papier)を通じて、文化芸術活動が「社会的処方」として持つ可能性を検討した。
市民ボランティアとアーティストが協働し、200mの紙を使ったインスタレーション作品を制作。参加者は「面白そう」「紙が好き」「場所に惹かれた」といった個人的な関心を入口に集まり、専門知識の有無に関わらず、自分のペースで関わることができた。制作過程では、驚きや発見、集中、心地よい疲労感が連続的に生まれ、参加者同士やアーティストとの自然なコミュニケーションが育まれていた。
特に重要だったのは、「役割」や「正解」に縛られない寛容な場の設計である。参加者は、自分なりの関わり方が受け入れられる安心感の中で、主体的に場に関わり、他者との関係性や自己効力感を獲得していた。こうした特徴は、社会的処方が重視する「人間中心性」「エンパワメント」「共創」の理念と重なっている。
本レポートは、文化芸術活動が単なる鑑賞や余暇にとどまらず、人と人との関係性を生み出し、一人ひとりのウェルビーイングを支える実践になり得ることを示している。また、「個人的関心」や「創造性」を起点に、人が主体的に社会と関わる回路を開くことが、社会的処方と連動した時のアートプロジェクトの大きな価値であると提起している。

■東部・伊豆地域文化ネットワーク形成準備事業 F_P polytope
主催:静岡県
コーディネート:アーツカウンシルしずおか
■poly_papier(インスタレーション制作)
アーティスト:中島崇(現代美術家)
作品タイトル:Pulp it!
マネジメント:NPO法人レザミ・デ・ザール
協力:特種東海製紙(株)、長泉町、ながいずみ観光交流協会



