COLUMN

いっぷく

文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。

vol.27

温もりの情報源

(チーフプログラム・ディレクター 櫛野展正)

「お互いのひみつを交換してみませんか?」

12月18日(土)・19日(日)の2日間、シズオカオーケストラによる第2回目となる「しずおかのひみつ交換所」の試行実験が行われた。

個々人が持つ「ひみつにしておきたいほど大切な静岡の情報」を提供することで、別の誰かのひみつを得ることができるという企画で、ガイドブックには載っていない誰かのお気に入りの場所などを知ることにより、静岡の街に愛着を抱いてもらおうというプロジェクトだ。

凍てつくような寒さのなか、改造された特製屋台がハニカムスクエア呉服町に運ばれてきた。

5月の試行時には、ひみつを収納する道具として薬瓶が使われていたが、今回使用されていたのはタミヤの小さなガラス製ボトルだった。

本来であれば、模型用塗料の保存に利用するためのものだが、万年筆のインクを保管するために使うなど、別の用途で使う人もいるようだ。

こうした静岡に関連した物を別の視点で活用しているところが、実にシズオカオーケストラらしい。


正直言って、頻繁にお客さんが訪れていたかと言えばそうではない。

初日は極端に説明を省いていたから、とにかく集客に苦労していた。

その分、まるでキャッチのように気さくに通行人へ話しかけていくスタッフの巧みな話術が冴え渡っていたように思う。

参加者から丁寧に情報を聞き取り、ひみつを聞き取っていく。

さらに驚くことに、また別のスタッフが両者の会話を書き起こしており、それらを写真で撮影しては台紙へ貼ってプレゼントしていたのだ。

自分が差し出したひみつと他人から提供したひみつを見比べてみると、スタッフがなぜこのひみつを処方してくれたのかも何だか納得できる。

ひみつは口外禁止のため、その詳細をここで記すことはできないが、対話を経て情報を入手していく過程は、さながらロールプレイングゲームの世界に迷い込んだかのようだ。


総務省の統計によると、日本のインターネット利用率は8割にのぼり、20〜39歳では9割以上がスマートフォンからインターネットを利用しているという。

いまや手のひらサイズのスマホで、僕らはいつでも世界と繋がることができるようになった。

一見すると便利なインターネットだが、実は無条件に世界中と繋がっているわけではない。

当然のことながら、調べ物をするときには、僕らは自分が知っていたり耳にしたりしていたことがある言葉を入力する。

ネット上の、あらゆるサービスや広告は、いつも僕らに最適化しているため、たとえばグルメに興味がある人であれば、タイムラインに流れてくるのはグルメに関連した商品の広告だけだろう。

サバイバルゲームに関する情報なんて絶対に流れてこない。

膨大な情報が溢れているインターネットの世界だけれど、実は僕らは自分の知識の周辺にある限られた情報しか入手することができていない。

自分のスマホはどんどん使いやすくなる一方で、無関心なことや自分と違う意見は見えづらくなっているのだ。

つまり、インターネットの普及によって、かえって僕らの世界は狭められてしまったとも言えるだろう。

そのように考えたとき、「書を捨てよ、町へ出よう」ではないけれど、必要なのは、自分が情報を入手できる範囲から敢えて飛び出してみることだ。

コロナ禍で人とのつながりが求められるなか、「しずおかのひみつ交換所」のようなつながりを大切にするプログラムは今後も重視されるだろうし、こうしたインターネットでは入手することのできない温もりのある情報の価値は一層貴重なものになるはずだ。


第3回目の「しずおかのひみつ交換所」は、

2022年1月22日(土)・ 23日(日)に静岡駅北口地下イベントスペースにて開催予定

シズオカオーケストラ

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