COLUMN

いっぷく

文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。

vol.19

ポスト五輪の

アーツカウンシルしずおかへの期待

寄稿 ・ 太下義之
(同志社大学経済学部教授、国際日本文化研究センター客員教授、
アーツカウンシルしずおかカウンシルボード議長)

「アーツカウンシルしずおか」は、2021 年1月に静岡県文化財団内に設置されたが、実は、このアーツカウンシルの設置は東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「2020五輪」)ときわめて密接な関係がある。

そもそも静岡県の文化政策において、「アーツカウンシル」の必要性は以前から認識はされていた。

具体的には、2014年3月策定の「第3期 ふじのくに文化振興基本計画」において、「県は、県内を拠点に活動するアーティストや文化団体等を総合的にサポートし、県内の文化振興の推進を担う新たな仕組みとして、アーティスト等への助成を機軸としながら、自ら調査研究や支援事業等を行う専門機関「アーツカウンシル」の設置を検討します」※1と記述されている。

そして、この検討が具体化した契機が2020五輪であった。

2014年11月に「全国知事会 2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部会議」が開催されたが、同会議において川勝平太知事が文化プログラムを全国で実施すべきという積極的推進の発言したことを踏まえ、会議の決議文に「2020 年に向け、全国各地から地域固有の文化発信が活発に行われるべきである」 との文言が盛り込まれた。

すなわち、静岡県は2020五輪の文化プログラムの言説面でのリーダーとなったのである。

この知事の発言を受けて、静岡県では 2020 五輪の文化プログラムに向けた取組みが開始された。

「静岡県文化プログラム・1000日前フォーラム」 2017.10.29 於;大日本報徳社(掛川市)
パネルディスカッション『静岡県の文化プログラムへの期待』
向かって右から 山口裕美氏(アートプロデューサー)、川勝太平氏(静岡県知事)、青柳正規氏(前・文化庁長官、東京大学名誉教授)、筆者

2016年5月には、文化プログラムに関する静岡県の基本方針が策定され、その中で 「文化・芸術活動支援、文化・芸術活動の社会的課題への対応の基盤となるネットワーク形成」 及び 文化・芸術の振興と地域協働のための新たな専門組織(例:地域版アーツカウンシル)の設置・運営」 ※2と明記された。

そして、静岡県版アーツカウンシルの形成に取り組む実践的専門家としてのプログラム・コーディネーターを公募し、2016年6月から3名に業務を委嘱するとともに、同年7月より、静岡県内で文化プログラムに参画する、あるいは参画を希望する団体やグループ等に伴走しながら、基本方針を踏まえた各種の助言や支援等を行い、全県に渡るプログラムの推進を始めたのである。

これが現在のアーツカウンシルに至る萌芽となった。

そして、地域資源の活用や社会課題への対応を図る創造的な取組を支援する「地域密着プログラム」を中心に、県内でさまざまな文化プログラムが推進されていくことになる。

北見美佳『SUMU3 ユラストヲリ』 の前で作者と
(原泉アートデイズ!2020)

こうした流れを受けて2018年3月に策定された第4期の「ふじのくに文化振興基本計画(2018 年度から 2021 年度まで)」 ※3 では、アーツカウンシルという単語が全部で22カ所も登場する。

そのうち、「県は、今後文化を「支える」機能の中核を担う存在として、オリンピック・パラリンピック文化プログラムにおける支援の方法を検証しつつ、その仕組みを活用し、「アーツカウンシル」設立を図ります」 及び 「県は、独自の支援の仕組みを通じて、文化プログラムの成果を様々な形で政策推進に生かしていきます。重点施策3では、文化芸術振興を目的としたプログラムを推進するとともに、この仕組みを生かし、「アーツカウンシル」の設立を図ります」 と記載されている点は特に重要である。

すなわち、アーツカウンシルの設立が文化政策の中で重点施策化されるとともに、設立の時限目標(第4期中)が設定されたのである。

こうした流れを経て、「アーツカウンシルしずおか」が設置された。

本稿にて振り返った通り、その設立は2020五輪と密接に関連するのであるから、そのレガシーを継承し、さらに発展させることが求められる。


ちなみに筆者にとっては、今般の2020の競技の中では、パラリンピックの「車いすバスケット」が特に印象的であった。

この競技においては、コートに出場する5人の選手の組み合わせが戦略上とても重要になる。
なぜならば、選手の障がいの程度によって一人一人に持ち点と言われる点数が与えられており、出場選手5人の持ち点合計を14点以内にするのが基本ルールとなっているからである※4

パラリンピックに関して、障がい者の中での特権的なアスリートを賛美しがちになるという批判もある中で、この車いすバスケは、まさに多様性を尊重する、共生社会のあるべき姿を象徴しているように感じられた。

2020五輪のレガシーとしてはさまざまなものが考えられるであろうが、多様性を尊重する、共生社会を念頭におく場合、文化プログラムであった「地域密着プログラム」を継承する「文化芸術による地域振興プログラム」が特に重要になるだろう。

ヒデミニシダ『境界の遊び場Ⅰ/浮かぶ縁側』 の上で
(UNMANNED 無人駅の芸術祭)

アーツカウンシルがこれらのプログラムに伴走することによって、アーツカウンシル長・加藤種男氏の提唱する「すべての県民がつくり手」を、ぜひ実現していただきたいと期待する。


  [引用/参考]

  1. 静岡県「第3期 ふじのくに文化振興基本計画」
  2. 静岡県「静岡県の文化プログラム 基本方針」
  3. 静岡県「ふじのくに文化振興基本計画(2018 年度から 2021 年度まで)」
  4. 一般社団法人日本車いすバスケットボール連盟「車いすバスケットボールを知る」
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