文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。
いっぷく
vol.24
クリエイティブサポートレッツの企て
(チーフプログラム・ディレクター 櫛野展正)
何だ、これは!
「素晴らしい、美しい!輝いているよ、その思い届いているよ」
一体、僕は何を見せられているのだろうか。
その掛け声に呼応するかのように、舞台上では音楽に合わせて中年の男性が即興で飛び跳ねたり踊ったりしている。
彼は、気分が高揚してくると僕らに近づくどころか、後退りして舞台から降りてしまった。
もはや舞台なんて概念は、彼には関係ないのかも知れない。
座ったベンチから背筋を伸ばして彼の姿を追うと、舞台の向こう側でもまだ踊り続けているようだった。
2曲を踊り終えると、舞台の後ろで倒れ込み、吐き気をもよおしている姿が目に飛び込んできた。
もう次の団体の演奏なんて耳に入らず、僕の視線はぐったりした彼に釘付けだった。
大袈裟な言い方かも知れないけれど、まさに命がけで挑んでいるような姿と舞台上で繰り広げられていた奇妙なパフォーマンスとの落差に、どこか愛おしささえ感じてしまう。
この行為を推薦した女性の話では、こうした表現は福祉施設で日常的に繰り広げられている行為のようだ。
うまく言葉では言い表せないけれど、あのとき、僕は何か心に響くものを感じてしまった。
雑多な音楽ステージ
これは、浜松市にある認定NPO法人クリエイティブサポートレッツが松菱デパート跡地で開催した雑多な音楽ステージ「推し☆たん!!」での一幕だった。
元になっているのは、クリエイティブサポートレッツが2016年より進めてきた「表現未満、」プロジェクトを体現する活動のひとつ、オーディション型音楽イベント「~雑多な音楽の祭典~スタ☆タン!!」だ。
通称「スタ☆タン!!」とは、日常の中の音楽や音楽とすら呼べなくても、誰かが大切にしている表現を真剣に見つめて言葉にしていこうとする企画で、2020年からは、より日常の表現を収集する「スタ☆タン!!Z」というプロジェクトを始動し、オンライン参加もできるイベントへと進化を遂げている。
「スタ☆タン!!」が従来のパフォーマンス型のイベントと大きく異なっているのは、その行為に共感し、世の中に広めようと試みる「審査員」という名の推薦者がいるということだ。
審査員の視点が加わることで、一見稚拙に見えるような行為でさえも、途端に魅力的な行為に様変わりして見えてくることがある。
もちろん人の好みなんて多彩だから、「審査員はそうは言っているけれど、自分はそんな風には思わない」なんて反論しても良いだろう。
どんなに優れた作品や行為であっても、当人に発表の意志が無ければ、それが世に広まっていくことはない。
そこで重要になってくるのは「発見者」の存在だ。
過去に3度開催された「スタ☆タン!!」では、アートセンターやコンサートホール、オルタナティブスペースが舞台となっていた。
当初から興味を持つ人が集まるスペースであるがゆえに、それ以上の活動の広がりが期待できないという点が懸念されていたのかも知れない。
ところが、今回の舞台は、松菱デパート跡地という公共空間だ。
デート中のカップルや子連れ家族、そして老夫婦など多様な年代の人たちが、そこを通り過ぎていた。
何かしらのイベントをやっているからという理由だけではなく、1937年の創業以来、半世紀以上に渡って浜松のシンボル的存在だった百貨店を懐かしむ人、ただ近道だから通っている人などさまざまだったはずだ。
そんな人たちも、視線の端で「スタ☆タン!!」でのパフォーマンスを目撃したかも知れない。
ひょっとすると、そうした行為に衝撃を受けた人たちが自分たちの周りにも存在しているであろうスターを探し出してくれるのかも知れない。
そんな期待が、クリエイティブサポートレッツの企てにはある。
「オン・ライン」の可能性
それにしてもイベント名の「オン・ライン・クロスロード」とは、素晴らしいネーミングだ。
近年のコロナ禍のなかで「オンライン」という言葉は市民権を得て、多くの場面で目にするようになった。
ところが、今回は「オン・ライン」であり、地面の上に線が引かれただけの土煙が舞う空間だ。
僕らの暮らしは「オンライン」で便利になった一方で、タイムラインの海に流れてくる情報は、一人ひとりの趣味嗜好に基づいたものに限定されている。
言い換えれば、自分が興味関心のない情報については、よほど本腰を入れて探さない限り、取捨選択することさえ難しい状況になっている。
そういう風に考えていくと、偶然の出会いを生み出す「オン・ライン」に、僕は無限の可能性を感じてしまう。
「これは音楽イベントです。決して宗教団体の集会ではありません〜」
クリエイティブサポートレッツに勤める司会の男性が、自虐的にマイクに向かって叫んでいた。
クリエイティブサポートレッツは、いつも自分たちの活動を俯瞰的に捉えている。
その鳥の目のような活動は、次にどんな企みを見せてくれるのだろうか。