COLUMN

いっぷく

文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。

vol.44

ぼくだって、高校生

(チーフプログラム・ディレクター 櫛野展正)

沼津市内の任意団体「こころのまま」主催となる3回目の絵画制作イベントが、静岡県総合コンベンション施設「プラサ ヴェルデ」のホールで開催された。

今回も沼津西高等学校田方農業高等学校の生徒たちが、障害のある子どもたちのサポート役として参加してくれたが、回を重ねるごとに、障害のある人に対する支援技術を身をもって体得しているようで、ひとりひとりの特性に応じて積極的に声をかけたり画材を準備したりする様子に関心してしまった。

色員さん」と呼ばれる「こころのまま」に所属する障害のあるメンバーの様子も、前回とは異なっていた。

「この場所へ来たら、絵を描く」という認識ができているようで、みんな落ち着いて制作に臨んでいた。

特に、みんなの輪に加わることが難しかった「めいちゃん」は、最初から机に向かって絵を描くことができており、担当した高校生たちもホッと胸を撫で下ろしていた。

この絵画制作イベントでは、キャンバスを使った制作が中心となっている。

そのため、いつもは画用紙しか使ったことのない色員さんにとって、それが特別な体験となっているようだ。

ある種、高校生たちと共同制作という形で次々とバリエーションに富んだ絵画が生まれている訳だが、普段は全く異なる絵を描く人にとっては、それが良いことなのかどうなのか今はまだ答えを出すことができない。

きっと、こうしたトライ&エラーの繰り返しが、お互いを成長させていくのだろう。


楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、ホールの片隅で反省会の準備が進められていたとき、事件は起きた。

「高校生たち、集合。椅子に座ってください」

主催の沼田潤さんがマイクで呼びかけている。

サポーターとして参加した高校生たちが、ぞろぞろと着席する中、真ん中でいち早く座っている男性がいた。

今回、創作に参加していた色員さんの「あさひくん」だった。

聞けば、彼は高校3年生とのこと。

なるほど、確かに「高校生」だから座っているのだ。

その佇まいは堂々としたもので、サポート役の高校生たちが感想を言い終わった後、僕は思わず彼にマイクを渡してみた。

誰もが、彼の発言を聞き逃さまいと耳をそばだてていた。

「後輩たちが」なんて単語が出ていたから、きっと関わってくれた高校生たちのことを言っていたのかも知れない。

あさひくんにとっては、障害の有無なんて関係なく、仲間である同じ高校生たちとの関わりを楽しんでいたのだ。

これが目指すべき姿なのだろう。

もしかしたら、障害の有無なんて気にしているのは僕らの方なのかも知れない。


中津川浩章さんのファシリテーションのもとで進んでいくこの絵画制作イベントは、のんびりとした雰囲気が堪らなく心地良い。

最終的には、企業に展示するための作品制作を目指した事業なんだけれど、多分そんなこと誰ひとり考えてないだろう。

でも、それで良いのだと思う。

楽しい時間を過ごしたあと、出来上がった作品をどうするかは、後から考えれば良いのだ。

「ただ一緒に楽しもう」

そんな楽しさを共有しようとする空気が、この場には流れている。

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