文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。
いっぷく

vol.87
アーティスト・クリエイター×空き家マッチングツアー 御殿場編 レポート
(アーツカウンシルしずおか)
アーツカウンシルしずおかでは、2023年度から、空き家活用におけるアートやアーティストの可能性を検証するパイロット事業「fresh air」を展開しています。
地方における空き家の増加は全国的な課題として語られていますが、本事業では、クリエイティブな視点で物件の価値を捉え直すとともに、制作・発表の場不足や賃料負担などの課題を抱えるアーティストの活動を支援することも目的としています。3年目となる2025年度は、空き家ツアーの実施や、アートによる空き家活用ガイドラインの作成に取り組んでいます。
空き家マッチングツアー全4回のうち、第一回は御殿場市で行われました。御殿場市は富士山の麓に位置し、観光地やアウトレットモールのイメージが強い地域です。標高が高いため、富士山に近いにもかかわらず、海沿いの地域から見るよりも低く見えるのが特徴で、宝永山が正面に見える位置関係もこの土地ならではの眺めといえます。
また、避暑地としての歴史もあり、これまで多くの文化人に親しまれてきました。旧道では毎年夏に大きな祭りが開かれ、地元住民を中心に大勢の人が集まります。
御殿場の人たちは、横浜や山梨といった周辺地域にも日常的に車で移動することが多く、生活圏が広いのも特徴です。東名・新東名の二つの高速道路が通っており、都内へのアクセスも比較的良好な立地にあります。

継創舎と富士山文化ハウス
本ツアーは、御殿場市を拠点に活動する「継創舎」と「富士山文化ハウス」が企画・運営を担当しました。
継創舎は、地域に眠る課題や可能性を掘り起こし、人とまちを育てることを目的としたまちづくり会社で、学ぶことや働くことの楽しさを実感できる場所づくりを進めています。
富士山文化ハウスは、アーツカウンシルしずおかが実施してきた「マイクロ・アート・ワーケーション(MAW)」をきっかけに、市内の有志によって立ち上げられた団体で、ゲストハウスやカフェの運営者、クリエイターなどを中心に、私設図書館やイベントの企画を通して、日常的に文化活動を行っています。これまで、過去にMAWで滞在したアーティストがイベントの際に再び御殿場を訪れるなど、継続的な関係性が築かれてきました。
参考:富士山文化ハウスがホストを務めた「マイクロ・アート・ワーケーション」の滞在記
https://note.com/microart2025/m/me78913838c35
アーティスト・クリエイターと空き家のマッチング
当日は、絵画、演劇、デザインなど多岐にわたるジャンルで活動するアーティストやクリエイターが参加し、御殿場市内の空き家4軒を巡りました。
参加者の中に、大型作品の制作や保管のための広いアトリエや大規模な展示空間を求める人はいませんでしたが、住居内に制作用の部屋が一室あればよいというケースから、住居とは別の場所に独立したアトリエを希望するケースまで、物件に求める条件はさまざまでした。
見学中に語られた要望は具体的で、車で直接搬入・搬出ができることや、音を出して作業できるかといった制作環境に関するものから、自然物を用いた制作に合わせて、土間のような屋内外が曖昧な空間や庭が欲しいといった、制作のテーマに近い環境を求める声まで、多岐にわたりました。

見学した物件は、住宅街にあるリゾートマンションの一室、一戸建て、旧道沿いの空き店舗、文化拠点である喫茶店の上階にあるビルの一室など、立地や性格が大きく異なっていました。
リゾートマンションでは、コンクリート壁で部屋が区切られているため間取りの変更は難しいものの、個室が複数あることから、制作スペースや物置として活用できそうだという意見がありました。
一戸建てには4~6畳ほどの部屋がいくつもあり、打ち合わせスペースやシェアアトリエとしての可能性が指摘されました。
旧道沿いの空き店舗は老朽化が進んでいることから、住居やアトリエではなく作品発表の場としての活用が想定される一方で、住居やアトリエとして使う場合には、貸主側がどの程度手を入れてくれるのかといった話題も上がりました。



また、文化拠点の上階にあるビルの一室にはルーフバルコニーがあり、1階に喫茶店もあることから、知人を招いたり、発表の場として活用したりする可能性も話題に上りました。
最上階のレンタルスペースに上がった際には、高い建物が少ない御殿場ならではの開けた眺望や、富士山の見え方が印象に残りました。

交流会による意見交換
見学後の交流会には、写真家や吹奏楽団の関係者、美術館運営者、クラフトフェアの運営者、金融機関の担当者など、地域で活動する人々も参加し、アーティストの活動内容や生活条件、地域との関わり方について意見を交わしました。


本ツアーの企画・運営を担当した「継創舎+富士山文化ハウス」からは、「アーティストごとに求める条件が大きく異なることに、改めて気付かされた」という声が聞かれました。「運営に関わる私たちの中にも多様なバックグラウンドを持つ人がいることから、アーティストのニッチな要望を地域のさまざまな人たちにつなげていきたい」という意見や、「今後はアーティストの活動や地域のことについて、より深い話ができる場を設けていきたい」といった話もありました。
アーティストからは、物件の紹介にあたって先入観を持たず、さまざまな物件を見せてもらえることへの期待が寄せられました。また、移住後に地域の文化活動にどのように関わっていけばよいのか不安を感じている人も多く、今回のような交流の場があるとありがたいという声も聞かれました。
今回のツアーは、空き家をすぐに活用することまでを目指した企画ではありませんでしたが、アーティストの具体的な要望が浮かび上がり、地域側がそれを知る貴重な機会となりました。アーティストごとに求める条件は大きく異なりますが、地域には多様な人、そして多様な物件が存在しています。その中で、ニーズとリソースを一つずつ丁寧に結びつけていくことの重要性が、改めて見えてきたように思えます。
執筆:細道航(gallery kankō)