文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。
いっぷく

vol.88
アーティスト・クリエイター×空き家マッチングツアー 島田・川根編 レポート
(アーツカウンシルしずおか)
アーツカウンシルしずおかでは、2023年度より、空き家活用におけるアートやアーティストの可能性を検証するパイロット事業「fresh air」を展開しています。3年目となる2025年度は、空き家ツアーの実施や、アートによる空き家活用ガイドラインの作成に取り組んでいます。
空き家マッチングツアー全4回のうち、第二回は、島田市の六合エリアと川根本町を巡りました。六合エリアは、JR六合駅を中心に住宅地が広がり、生活利便性の高さと自然環境のバランスが取れた地域です。一方、川根本町は大井川と山々に囲まれたエリアで、橋が少ないことから地域内でも川の東西で雰囲気が異なる土地です。また、茶畑が広がる光景からは、自然景観と地域産業が密接に結びついている様子がうかがえます。


空き家買取専科
本ツアーでは、「空き家買取専科(株式会社SweetsInvestment)」が物件案内を担当しました。同社は、静岡県内で増え続ける使われなくなった不動産に対し、直接買取と再生販売を行う専門店です。主に個人住宅を対象に、耐震補強や現代の生活に合った間取りへの改修などを施し、空き家に新たな価値を付加してきました。
また、移住後の暮らしをより具体的にイメージしてもらうため、移住体験ツアーの実施などにも積極的に取り組んできました。
アーティスト・クリエイターと空き家のマッチング
当日は、絵画、彫刻、工芸、音楽、デジタル分野など、多様なジャンルで活動するアーティストやクリエイターが参加し、島田市内の物件を見学後、川根本町へと向かいました。
今回の参加者の多くは居住を目的とするというよりも、泊まることのできるアトリエや、展示・ワークショップが行えるスペース、あるいは展覧会などの発表の場として空き家を活用できないかといった視点で物件を探していました。

見学した物件は、島田市・六合駅から近い一軒家、同市中山間地の駐車場の広い元社員寮、川根本町にある老朽化の進んだ平屋、リフォームをした移住者向け住宅など、立地や状態が大きく異なるものでした。
駅近の一軒家は、生活の場としての現実性が高い一方で、制作や発表の拠点としては慎重な意見もありました。住宅街に位置しているため近隣との距離が近く、音の問題など、住宅として条件が整っていることが、必ずしも活動のしやすさに直結するわけではないことが共有されました。
一方、駐車場の広い物件については、ワークショップやイベントに適しているという声が上がりました。この物件は、元社員寮を前後二つに分け、それぞれを住居としてリノベーションしていることから、一方を住居とし、もう一方をアーティスト向けの宿泊施設として活用するといったアイデアも共有されました。
特に印象的だったのは、老朽化が進み、一般的には住居として扱いづらい平屋に対して、複数のアーティストが高い関心を示した点です。柱や壁に残された生活の痕跡や、改修を前提とした余白の多さ、用途が定まっていない状態そのものを、発表の場として積極的に読み取ろうとする姿勢が見られました。
また、4件目の移住者向け住宅は坂道の途中に位置し、学校が近いことから、地域に開かれたコミュニティスペースとしての可能性が指摘されました。加えて、収納が多い点については、作品の保管がしやすいという意見も聞かれました。


交流会による意見交換
見学後の交流会では、参加者それぞれが気になった物件について意見を交わしました。アーティストからは、住居として使う場合と、発表やワークショップの場として活用する場合とでは、物件を見る際の基準が大きく異なることが語られました。これに対して空き家買取専科側からは、状態の悪い物件に対してアーティストが関心を示した点が印象的だったという声が聞かれました。
また、交流会に参加した川根本町の移住コーディネーターからは、川根地域には住宅以外にも、現在使われていないお茶工場などの建物がいくつか存在しているという話がありました。これを受けてアーティストからは、美術館のように天井が高い空間や、大型機材の搬入が可能な建物へのニーズも想定できるのではないか、といった指摘がありました。
参考:静岡県川根本町 移住定住ポータルサイト
https://iju-kawanehon.jp/


最後に行った空き家買取専科へのヒアリングでは、今回のツアーがアーツカウンシルしずおかの委託事業だからこそ成り立っている面が大きいことが、あらためて共有されました。そのうえで、不動産事業としての採算性と地域課題への関与をどのように両立していくかが、今後も検討すべき課題として挙げられました。また、地域課題は一社のみで担うものではないことから、他の企業や関係者が関わることで、取り組みの幅が広がる可能性も示されました。
今回のツアーを通して、空き家を住宅として再生し、主に個人に向けて販売してきた企業と、制作や発表、活動の場として空間を捉えるアーティストとでは、空き家への関心の向け方や関わり方に違いがあることが改めて浮かび上がりました。
アーティスト側からは、リノベーションや片付けが行われる前の状態を見たい、住宅以外の用途を想定した物件についても知りたいといった声が聞かれました。企業側からは、新たな可能性を模索したいという意向がある一方で、購入や契約が前提でない段階から丁寧に対応することの難しさなど、事業としての採算性とのバランスといった現実的な課題も語られました。
今回のツアーは、こうした前提や立場の違いを踏まえつつ、現実的な接点のあり方を考えるための一つの場だったと言えるでしょう。
執筆:細道航(gallery kankō)