文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。
いっぷく
vol.47
祭りばやしが体現する町の「温かさ」
(プログラム・ディレクター 鈴木一郎太)
9月4日(日)に、三島市民文化会館にて「しゃぎりフェスティバル2022」が開催されました。しゃぎり演奏の他、しゃぎりの特徴を紐解く「しゃぎり講座」、中島八坂太鼓とのコラボ演奏、そして今年はしゃぎりの醍醐味である競り合いがフィナーレで実施され、出演されたみなさんのしゃぎり愛が存分に表現されるとともに、その信念だけでなく地域性が感じられるイベントでした。
伝統文化の継承というと、しきたりや形式を守ることを想像してしまいがちですが、このしゃぎりフェスティバルは祭りからお囃子を切り離した取組であり、祭り自体も参加者の長男優遇や、性別や年齢についての縛りを段階的に撤廃するなど革新を繰り返してきた経緯もあり、新たな試みに対してオープンなプロジェクトです。そんなスタンスが反映され、イベント内では、幕間に子どもたちの演奏があったり、三島市へ移住した方々も舞台にあがってフィナーレの演奏に参加するといった趣向もあったり、日大三島高校放送部の高校生たちが担当した司会進行とも相まって、様々な人の関わりを受け入れる雰囲気が色濃く感じられました。
いろいろな人が出演していたこと以外に、そのような受け入れる雰囲気がつくられた要因として、演奏の中で目立つ地元出演者たちの振る舞いによる影響があったように思います。
会場には摺り鉦、太鼓、笛を手に演奏していた人が総勢で100名ほどいましたが、その中でもパフォーマンスでひときわ目を引く人たちがいました。体の動かし方や力の入れ具合、立ち姿などによって、気付くと目で追ってしまうような魅力的なパフォーマンスを披露する方々です。子どもたちや移住者の方々が舞台に上がった際も、一緒に出ていた彼らの存在は、やはり目立っていました。しかしよく見ると彼らは手に楽器は持っておらず、手ぶらでした。自分が演奏しているのと同じ勢いで体を動かし、周囲を見渡し、アイコンタクトとジェスチャーでコミュニケーションをとりながら、演奏者たちを鼓舞し、盛り立て役に徹しているその姿に感動しました。
彼らの「それっ!もっと!」と言っているかのような姿が舞台上で自分に向けられたとしたら、きっと「ここにいていいんだ」と感じるだろうと想像しました。後日、このフェスティバルに初めて来場された方がイベントを「温かだった」という感想を寄せてくれたと聞きましたが、とても納得がいきました。
そして、ただウェルカムな雰囲気で温かいというだけでなく、プログラムの中で司会の高校生たちからのむちゃぶりに応える形で行われた、摺り鉦、太鼓、笛の代わりにバケツや鍋等の日用品を使った演奏も温かでしたし、違いを受け入れ変わることを楽しむ様子も温かでしたし、観客席側で交わされる町の人たち同士の会話から感じられる横のつながりも温かでした。
そのような許容性の高さは、東海道の宿場町という全国各地の人が往来する場所で発祥から220年続いているしゃぎり自体の特徴だと思いますが、祭り本体からお囃子だけを切り出し身軽になったことが伝統を見つめ直すきっかけとなり、その特徴がより際立ったと言えるのかもしれません。
また、フェスティバルの温かさは、その許容という特徴があったからだと思いますが、そこには同時に地域自体の雰囲気が反映されているようにも思います。今年はフェスティバルとは別の日に移住者の方々向けのしゃぎり体験ツアーが開催され好評だったと聞きました。伝統文化と移住をつないだこの取組の成果に期待できるのは、しゃぎりに培われた、もしくはしゃぎりを育んだ温かな地域性が三島にあるからです。
「自らを鍛え、引き継ぐ人を育て、伝える」という活動を、実施している本人たち自らが率先して楽しみながら突き詰めた結果、「しゃぎりフェスティバル」というイベントが三島という町に住む人の魅力を体現し、町に人を引き寄せるものになってきたのだと思います。「子どもたちにかっこいい大人の姿を見せる」と実行委員の方々は言っていましたが、本気で遊び、苦労し、楽しむ姿はとてもかっこよかったです。子どもたちに限らず、来場された多くの方々に伝わっていたことでしょう。
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