COLUMN

いっぷく

文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。

vol.76

アーツカウンシルしずおか 2024年度「文化芸術による地域振興プログラム」成果報告会に参加して

梅田英春

 地域振興といってもその方法や内容は実に多種多様である。過疎化ゆえに消えゆく地域や、世代継承が風前の灯となっている文化、新しい文化創出、新たな地域コミュニティー形成、ハンディをもった人々、高齢者、子どもなどさまざまな人々との交流……。そのようなさまざまな状況の中で、文化芸術ははかり知れない力を持つということ。

 文化芸術という言葉は、なんとなく格式高く、少しばかり近づきにくい響きを持っている気がする。でも、世界の誰だって文化や芸術と関わる権利を持っているし、誰もが「アーティスト」になれるはずだ。そしてそこで生まれた「アート」は新しい地域を創出していくものだ。

 ルイ・アームストロングが歌う《What a Wonderful World》にこんな歌詞がある。

 通り過ぎる人々の顔にも

 友達同士が握手しているのが見える

 「どうしてるの?」と言いながら

 あの人達は本当はこう言っている

 「愛してるよ」

 愛しているのは「あなた」でもあり、「アート」や「アートを愛して、奮闘するあなた」。まさに「この素晴らしき世界」。文化芸術にはそんな世界を創る力があるとボクは信じている。いいえ、ボクだけじゃない。世界中のアーツカウンシルはみなそれを信じている。こんなところでも、あんなところでも、文化芸術はしぶとく根を生やし決して枯れることなく、成長していくものだ。でもそのためには、土壌と苗木の改良、その場にふさわしい苗木の選定、そして肥料を与え、大きな葉や熟れた実をつけるのを見守る「アーティスト」が必要だ。アーツカウンシルはそんな「アーティスト」たちとさまざまな地域を作っているのだと思う。でも毎年のように青々と葉が茂り、熟した実を収穫し続ける豊かな大地を生み出すには長い時間がかかるものだ。

 「どうすれば豊かな大地が創造できるのだろう?」と誰もが頭を抱えるものだ。でもそれを解決するきっかけは、誰かと「会話」をすること、そして今いる場所から思い切って外に出てみること。そこには自分の知らなかった「素晴らしき世界」が広がっているものだ。同じような目的を持ち、それを成し遂げようと奮闘する仲間がきっといるものだ。つながること、それが成功への近道。そして半歩先を見て歩むこと。もしかしたら、あなた自身で成し遂げられることはなくても、必ず次の世代が、あるいは仲間が実り多き豊かな大地を生み出してくれるだろう。

 アーツカウンシルと「あなた」は太い綱で繋がっていてもそれは永劫無極に存在するわけじゃない。だからこそ、線ではなく面を作ろう。広大なスペースはお互いの絆で繋がっていくものだ。そして、「あなた」「わたし」でやり遂げると義務的に考えるのではなく、未来を見据えること。

 だからそんな人々を温かく見守ってほしいな。収穫かごをもって苗木の周りに集まっても、熟した実は手に入らない。そのかわりに、きっとたくさんの「アーティスト」との出会いがある。食べてなくなる実よりもその方がずっと大きな価値があると思わない?

 ルイ・アームストロングは最後にこう歌う。

 赤ちゃんの泣き声が聞こえる

 成長するのを見まもろう

 赤ちゃんはもっとたくさんのことを学ぶだろう

 わたしが知ることよりはるかにたくさんのことを。

 そして、ひとり思う

 なんて素晴らしい世界なのであろうか

 文化芸術はそんな素晴らしい世界を創ることができるのだよ。今どうするか、それも大事なことだ。でも次の世代につなげていくこと。そして文化芸術とはそれができる大きな力なのだ。

アーツカウンシルしずおか 2024年度「文化芸術による地域振興プログラム」成果報告会

【日時】2025年2月9日(日)13:00~17:00

【会場】アクトシティ浜松コングレスセンター31会議室

梅田英春

東京に生まれる。国立音楽大学楽理科在学時代にバリのガムラン音楽とワヤンに出会い、ガムラン・グループ「スカル・ジュプン」の設立に参画。卒業後、インドネシア政府奨学金ダルマシスワを得て、1986年から88年の間、バリのインドネシア芸術アカデミー(現インドネシア芸術大学)とタバナン県トゥンジュク村のダランのもとでワヤンを学ぶ。帰国後は、桜美林大学大学院、総合研究大学院大学でバリのワヤンと儀礼に関する研究を行う。沖縄県立芸術大学音楽学部准教授、ライデン大学客員研究員を経て、静岡文化芸術大学文化政策学部教授。専門は民族音楽学。バリのワヤン一座(梅田トゥンジュク・ワヤン一座)を主宰。日本各地でカウィ語と日本語を用いたワヤンの上演を続けるほか、バリ芸術祭やハワイ大学などで海外公演も行う。またガムラン奏者としても活動を行っている。『バリ島ワヤン夢うつつー影絵人形芝居修業記』(2009)、『バリ島の人形影絵芝居ワヤン』(2020)などの著書がある。

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