COLUMN

いっぷく

文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。

vol.14

8色あればたいていのものは描ける

(プログラム・ディレクター 鈴木一郎太)

ひさしぶりに絵を描く機会がありました。夏休みの宿題は最後にとっておくタイプで、気付いたら締め切りの一週間前。時間をつくって、さあ!と思ったら筆も絵具もない…

画材屋まで行く時間がなかったので、最寄りの文房具屋さんへ。

12色セットと筆3本くらいでいけるかなと思っていたのですが、いざ画材コーナーに行ってみると、絵を描いていた頃の記憶がよみがえってきました。12色あっても無駄になる色もでてくるし、そもそも10色くらいで十分に足りていたな、と。

もしかすると、これから絵を描く人の参考になるかもしれないので記しておきます。


「この8色さえあればたいていのものは描ける!」

今回買ったのはターナーのアクリルガッシュでしたが、昔使っていたWINSOR&NEWTONの油絵具を例にします

「暖かい系」

  赤-カドミウムレッド(094)

  青-フレンチウルトラマリン(263)

  黄-クロームイエローヒュー(149)

「冷たい系」

  赤-アリザリンクリムソン(004)

  青-コバルトブルー(178)

  黄-ウィンザーレモン(722)

「アンバー」

  バーントアンバー(076)

  ※明るみのある暗部を作りたい場合は、バーントシエナ(074)もしくはローシエナ(552)を追加

「ホワイト」

  チタニウムホワイト(644)


「これだけあればたいていのものは描ける」というのは、要するに、赤青黄の三原色があればあらかたの色はその組み合わせで作ることができるということです。

三原色の混ぜ合わせが平面移動だとすると、淡くしたり、深みを出すのは上下移動の様なもので、三原色の3色は地面を掘るドリルや、空を飛ぶ羽を持っていないので自分たちだけではどうしようもなく、アンバーやホワイトの魔法を借りて行き来するのです。

「暖かい」「冷たい」も同様です。この温度感は色を見た時に受ける印象ですが、各々はそれぞれ別の惑星出身と言っていい程、そもそもの世界観が違い、「暖かい」赤は逆立ちしても「冷たい」赤にはなれません。

そんなことを加味した8色の組み合わせですが、もちろんセットで売っているものも基本セットとして悪くないとは思いますが、この8色の組み合わせも、混色を楽しみ色を知る基本セットとしておすすめできます。

【練習】色をよく知るためのエクササイズ

「暖かい系」の3色+「アンバー」「ホワイト」と、「冷たい系」の3色+「アンバー」「ホワイト」を使って、それぞれ同じ物の絵を描いてみてください。

補足として、「アンバー」の効果は始めわかりにくいと思うので、「アンバー」抜きにしてやってみるのもいいかもしれません。


…などと書きましたが、絵を描く人それぞれの基本の組み合わせ色(パレット)があってあたりまえで、ここでご紹介したのはあくまで10数年前まで絵を描いていた僕の個人的なパレットで、別に定説ということではありません。書くもの、大きさ、イメージ、好み等、必要であれば事前に調色されたチューブを追加するのもありですし、やりながら出来上がってくるものでしょう。

 こうしてパレットの色選びを知ると、自分が絵を描く以外に、見る楽しみにもつながります。昔の画家のパレットを展覧会で見る時や、(最近はあまり目にしないですが)外で描いている人に出くわした時などに、そこにどんな試行錯誤があるのか想像しながらできて、がぜん楽しいと思います。

 何事も指標があると他を理解する手がかりになりますね。でも一方で、今回僕が自分の10数年前のパレット通りに絵具を買ったように、固定化してしまうとつまらなさもあると思い、文房具屋では目をつぶって選んだ色をひとつ追加で買って帰りました。

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