COLUMN

いっぷく

文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。

vol.6

「うなぎパイ」から「スイーツバンク」まで=春華堂の展開

(アーツカウンシル長 加藤種男)

わぁ、と思わず声を上げてしまうのが、春華堂の新社屋。

ゆったりとした敷地に、二階建ての二つの建物はテーブルに見立てられ、それぞれに巨大な椅子が添えられている。

きっと巨人が食事中で、ぼくたちはたちまち小人になってしまう。


名付けてスイーツバンクは、浜松駅から車で10分ほどの街中に突如現れたお菓子の家。

暖かい春の終わりに尋ねた。春華堂の本社を兼ねているというのに会社の看板がどこにもない。

いや、二階の屋根まで届く大きなピンクの美しい紙袋は、たしかに春華堂のバッグで、これが会社の表札になっている。

実に楽しいアイデアだ。

みんな、バッグや椅子を背景に写真を撮っている。


もっと凄いのは、隣のテーブルで、屋根の上に新聞が広げられていて、下に垂れた部分に浜松いわた信用金庫の広告が出ているという仕掛けで、これが、ATMコーナーを兼ねた信用金庫森田支店の看板になっている。

大きな赤い豚の置物「ピギー」があって、どうしてここに豚さんが、と聞くと、貯金箱だという答え。

お金を入れる穴もあるというので、ジャンプしてみて確かにコインの穴を発見。

これで金融機関をイメージしている。


春華堂の建物の方は、一階がショップ兼カフェ。

ゆったりとしたロビーは”アッシー”のお父さんが休むのにも最適。

洋菓子主体だが美しい和菓子もある。

うなぎパイももちろん。

ケーキも和菓子も、色とりどりにあまりにも可愛いので選ぶのに迷ってしまうほど。

ちょうどパイが焼きあがったというので、熱々を頂きながらカフェでお茶。

おいしいので「毎日来てもいいな」とつぶやく。


信用金庫の一角には、ミーティングルームもあって、ここで常務取締役・間宮純也さんらに春華堂の話を伺う。

今度はフルーツおはぎをいただきながら。

どこにもない施設、どこにもない体験を提案することをめざして、この2021年4月にオープン。

コンセプトの具現化に試行錯誤を経て当初予定よりも4年も遅れたという。

これだけ時間をかけただけに、「おいしい!おどろき」が実現したのだ。


自社の拠点をハブにして、地域社会に開かれた広域連携を目指しているのも特色で、浜松いわた信用金庫を筆頭に、様々な企業とも連携してプロジェクトを推進している。


スイーツバンクが誕生したのは、元々工業団地だったところで、近隣にもいろいろな工場がある。

道路を挟んで、割れたコップが転がっているのは、どうやら巨大テーブルから転げ落ちたものらしい。

そういうコンセプトで、住宅建材のMARUHACHIが陶器販売からスタートしたことにちなんで、スイーツバンクと連携しているのだ。


もちろん春華堂の本業である菓子作りにおいても、いくつもコラボレーションが生まれている。

スイーツの素材を知るためには種まきから、と遠州落花生を栽培する農園「あったか農場」と協同で落花生の栽培体験「Peanuts A to Z」を開催したり、子どもたちが「農」を通してビジネスを学ぶ浜松ジュニアビレッジと「なめらか紅はるかの琥珀カタラーナ」を共同開発したり。


こうして、SDGsなどの社会に開かれた取り組み展開を企業のブランド戦略に位置付けている。

一見無駄に見える創造性豊かな仕掛けが企業ブランド形成に寄与する。

その一連の活動が大輪の華と開いたのが、スイーツバンクだ。

これからどこまで行くのか楽しみで目の離せない企業である。

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