文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。
いっぷく
vol.11
思いもよらない派生を仕組む?
- しゃぎりフェスティバル実行委員会
- 川根本町お茶染め実行委員会
- ひかりの園(浜松市根洗学園)
- ACT.JT静岡支部
(プログラム・ディレクター 鈴木一郎太)
しゃぎりフェスティバル実行委員会<三島市>
「しゃぎり」は三島市で300年続く祭囃子です。本来はお祭りとセットで扱われるお囃子を、祭りと切り離して活動しているのがしゃぎりフェスティバル実行委員会のみなさんです。
普及を目的としていますが、それと同時に永続的発展と自己研鑽も活動目的として大事にされています。代表の福田さんによると、守るべき形を守ることもいいが、その時その時に合わせて変わってきたからこれだけ続いてきたのではないかと言います。その言葉通り、福田さんたちの活動には「やってみた」的な試みが随所に取り入れられていますし、それを楽しんで実施しています。また、プロジェクトという名目があるからこそ改めて見直す機会となる撥の持ち方や形状といった基礎的な物事にも注目し、新たな魅力の発見や、その届け先の模索を常に心掛けています。
変化やイレギュラーなことを楽しむ姿勢はこの活動の特徴だと思いますし、それはコロナ禍という人の行動様式にまで及ぶ変化に直面しても、自分たちができることを探って行動に移し、止まることはありませんでした。
今年度は9月19日(日)のフェスティバル開催と並行して、授産施設と協働でのグッズ作成と、しゃぎりの音の大きさを活用したプロモーション映像制作にも取り組んでいます。
特に「しゃぎり」の特徴のひとつである、通常より多く編成された摺り鉦(すりがね)が鳴り響き、耳元ですら声が聞こえないほどの「爆音」から企画を広げた映像のアイディアは、これまでになかった視点からのアプローチで完成が楽しみです。
実行委員会Facebookページ https://www.facebook.com/shagiri.fes/
川根本町お茶染め実行委員会<川根本町>
お茶染めは、お茶の製造工程で出る廃棄されてしまう部分の茶葉を染料として使った染め物です。茶産地である川根本町の産業として広めようという意気込みで立ち上がったプロジェクトですが、まずはプロジェクトの存在を町内に周知していこうということで、町内の小中高校の授業とタイアップした取り組みをスタートさせています。染め体験、活用アイディアやロゴマークの発案を、染色家やデザイナーとともに授業にとりこんだ展開を見せています。
教育と地域が結びついた中で文化的な手法がどのような働きをするか楽しみにしています。
社会福祉法人ひかりの園(浜松市根洗学園)<浜松市>
社会福祉法人が運営する療育施設が主体となった、福祉とアートの相性のよさを現場で活かしていくための試行錯誤をくりかえすプログラム。福祉と文化・芸術の特性を合わせたプログラムの実践と、その効果を示し、福祉業界へ提案、波及させることを目的としています。
浜松市根洗学園は発達がゆっくりな子どもと家族に寄り添い、ケアする専門施設として40年以上の歴史をもつ療育施設です。アーティストとの取り組みも10年以上になりますが、現場の中にアーティストを迎え入れ、その化学反応からケアの向上を見出すことを目的とした取り組みがその主なものでした。数年前からは周囲にあるグループホームや特別養護老人ホームなどと連携したプログラムも展開し始め、法人内ではありますが、福祉の他領域と連動した取り組みへと発展させてきました。
今年度は、これまでの取り組みを見える化し更なる展開へとつなげるための冊子制作と、現場でのケアする人のまなざしに着目した映像作品を演劇家の柏木陽さんと共に制作しています。
浜松市根洗学園HP https://obento-gayoshi.com/nearai-gakuen/
特定非営利活動法人ACT. JT 静岡支部<伊東市>
伊豆の伝統芸能が一堂に会するステージパフォーマンスを実施している団体ですが、そうした定期的な舞台をつくることにしっかりと意義づけをした活動展開をしています。
継続が心配されていた西伊豆町の出崎神社猿っ子踊りが無事に続けられることに決まったということもその成果のひとつだと言えます。年に一度伊豆半島内の芸能が集まる機会となるこのプロジェクトの存在が、継承についての議論のきっかけとなり、試行錯誤することの後押しをしたということでしょう。
人が集まることが難しい中ではありますが、今年度はアジアの芸能を体験するワークショップと、伊豆のODORIKOフェスティバルの開催が計画されています。
特定非営利活動法人ACT. JT http://act-jt.jp/
しゃぎりフェスティバル実行委員会さんの活動ではイベント実施がきっかけとなり、町と町の間にコミュニティ意識が生まれるという副産物的な成果がありました。そのように広がりのある展開を仕組んだ事業企画をすることがアーツカウンシルしずおかの考える、活動の広がりの一例です。さらに言えば、事前に予測できたり予定調和なことだけでなく、思いもよらない派生が生まれることも期待したいところです。未来の予測をすることはできませんが、イレギュラーを許容する心持ちでいることや、余白をあえて残すことで、派生の起こる確率を高めるということが仕組めないでしょうか?
多くの人が一堂に会して開催する舞台もプロジェクトの大事な一翼を担いますが、その集まりを通じてつくられるネットワークや、そのネットワークから派生する展開があるからこそ、私たちはアートプロジェクトに地域振興に対する期待をかけています。
もうひとつ、「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川」を主催する島田のNPO法人クロスメディアしまだも担当していますが、こちらは後日別記事でご紹介しようと思います。