COLUMN

いっぷく

文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。

vol.28

イノベーションを繰り返す伝統芸能が継承してきたもの

(プログラム・ディレクター 鈴木一郎太)

 しゃぎりフェスティバル実行委員会は、祭りのお囃子だけを敢えて祭りから切り離し、その永続的発展に向けた活動を展開しています。三島の祭り囃子「しゃぎり」は通常より多い人数編成の摺り鉦が特徴的で、隣の人と会話することも困難なほどの大音量でかき鳴らされます。


街道を通り、宿場に立ち寄る全国の旅人

三島大社の大鳥居前での「競り合い」の様子

しゃぎりが継承される三島市には伊豆国一宮である三島大社があり、大鳥居の前では東海道と下田街道が交差しています。東西と南の人の往来が交わる要所であり、格式の高い神社の門前町として栄えていましたが、五街道整備(1601年~)による三島宿の設置、参勤交代の導入(1635年)によって更なるにぎわいを見せたといいます。また三島宿は、箱根宿や箱根の関所の西側に位置しているため、難所とされている箱根峠を登る前には大社で祈願をし、東から無事に越えてきた人々は山祝いと言って酒宴をもうける等、足を止め滞在する人が多かったようです。

その起源となるお囃子の発祥から数えて約450年が経過しているとも言われるしゃぎりは、こうしたにぎわいの中で育まれ、現代に伝わるしゃぎりにも当時を思わせる要素が見られると代表の福田さんが教えてくれました。

昔から伝わる曲に葛西囃子など江戸のお囃子の曲名が使われていたり、祇園囃子の大編成での摺り鉦演奏と特徴を同じくする等がその例ではないかということですが、地域を越えた活発な交流がある中で、頑なになるのではなく、いろいろな文化の影響を受け入れる柔軟さがあったのではないかと想像します。


「柔軟性」が育んだイノベーション

 

一方、現代に目を向けると、町によっては毎年のようにしゃぎりのオリジナル曲をつくっていたり、既存曲をしゃぎり調にアレンジしたり、他地域の芸能はじめ、様々な団体とのコラボに積極的であったり、型にしばられず、自らが楽しむことを大事にしています。

さらに、ここ数十年の間には、長男だけ、男性だけが参加できるという風習が廃止されたり、存続の危機だったという町の再編の際には子どもしゃぎりが立ち上げられる等、時代に合わせた改変の歴史もあります。それは新型コロナ感染拡大の状況下においても同様で、公的機関の基準を参照しながらの独自ガイドライン作成や、装着したまま笛演奏ができるマスクの開発等、逐次工夫をしています。

成り立ちやここ数十年の改変、その時々に合わせた工夫と変化は、多様性を享受するスタンスが元になっていると言えるものです。個人的には、しゃぎりが継承している中で最も重要なものは、そうした変化を可能にした「柔軟性」なのではないかと思えてなりません。それは三島の祭りでイノベーションが長い間機能する土壌でもあったとも言え、その効果は町のいろいろな場面に表れていることだろうと想像します。

そもそもお囃子だけを祭りから抜き出して活動を始めるという発想自体も柔軟な考え方から生まれたものだと言えますし、お祭り好きらしく、とにかく楽しむというスタンスも強い一方で、客観性を持った目的の整理や展望を描くといった具体的な事業計画も、柔軟性と両輪になって相互に生かされています。そのような活動の姿は、伝統芸能の継承活動に限らず、様々な活動の発展を考える際の参考になるものではないかと思っています。


「第5回しゃぎりフェスティバル」開催!!

そんなしゃぎり漬けになれる第5回しゃぎりフェスティバルが年明けに開催されます。今回は中島八坂太鼓、三島農兵節普及会といった他の伝統芸能団体も参加し、地域の芸能の盛り立てにつなげます。また、しゃぎりの音の大きさ、爆音に着目したコーナーも企画されていて、そちらもおもしろそうです。

第5回しゃぎりフェスティバル

日時:2022年1月10日(月・祝)

会場:三島市民文化会館 大ホール

主催:しゃぎりフェスティバル実行委員会

共催:三島市

支援:アーツカウンシルしずおか

後援:静岡県、公益財団法人静岡県文化財団、三島市観光協会

問い合わせ先:しゃぎりフェスティバル実行委員会 http://facebook.com/shagiri.fes

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