文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。
いっぷく
vol.30
地域外の人も異物感を感じずにいられる町
(プログラム・コーディネーター 佐野直哉)
昨年12月19日、年の瀬の慌ただしさの中、伊東市宇佐美にて、Usamiフェス(11月14日開催)のアフターイベントが地元カフェのカワグチヤで開催されました。
静岡県文化プログラム時代から数えて2年目の支援となったUsamiフェスは2021年に10周年を迎え、宇佐美の初夏の風物詩となっているイベントです。
しかしこの2年間、新型コロナの影響で通常の5月末の開催から延期、特に2020年はイベント自体の開催が危ぶまれ、様々なイベントがキャンセルとなる中、感染対策をしっかりとおこなった上で、会場を分散しての開催に至りました。
2021年の開催では海辺ならではの強風に悩まされたものの、会場は元の宇佐美留田浜辺公園に戻しての開催でした。
宇佐美は熱海と伊東のちょうどいい間の距離に位置する地域ですが、だからこそ観光や地域の特徴の面では熱海でも伊東でもない、宇佐美らしさが問われます。
Usamiフェスは悩みながら10年、それを模索し続けてきた、と言ってもいいかもしれません。
ただ10年続けてられてきたのは、ひとえに実行委員会のメンバーの地域を盛り上げたい、観光地としての宇佐美を訴求したい、という想いの強さと、常に進化を貪欲に取り入れてきた行動力に依るところでしょう。
しかし一方で運営を担う世代の継承が喫緊の課題でもあります。
2021年は、町の若い世代、特に地域の未来を担う中学生ボランティアのアーティストの作品制作を始めとするフェスへの関わりが目立ちました。
それが 「地域に貢献したいと考えて活動したが、それを喜んでもらえてすごくうれしい。高校生になったら宇佐美フェスを知らない人に宣伝したいし、できたらまた参加したい」(伊豆新聞12月20日記事より原文のまま) というコメントにつながり、Usamiフェスの持続性へ新たな希望を照らしています。
実行委員会は、今回関わってくれた宇佐美中学生や、地域の人々の日頃のお礼として、このアフターイベントを位置づけました。
地元で伝わる「餅まき、菓子まき」と呼ばれる、高い場所からお餅やお菓子をまく、楽しいイベントで幕が開き、おでん、田舎寿司、冬のマーケット&マルシェなどのほか、昭和50年代宇佐美駅商店街のダンボールジオラマの再展示もおこなわれました。
フェスでは作家のたたらさんが適宜並べた店のジオラマを、アフターイベントでは地元の人たちが、ちゃんとその当時の商店街の並びの順番に並べ直しての展示となりました。
実行委員会の、アーティストやアート作品をフェスに取り込んでみよう、試してみよう、そうした新しいものへのチャレンジ精神は、宇佐美周辺に在住するアーティストの存在と活動を可視化しました。
たとえば、宇佐美のご当地ソング「みかんの花咲く丘」を宇佐美で集めた廃材で創作した楽器セットをフェスで制作したミュージシャンdskこと小島大介さん。
彼は地元に在住しながら「宇佐美の音」を追求していますが、アフターイベントではこんな音を聞かせてくれました。
ここ2年間はコロナの影響で、残念ながら地域外の人たちが訪れることがなかったUsamiフェスですが、宇佐美地域はサーフィンのポイントとしてこれまでも多くのサーファーが訪れています。
最近は民泊が宇佐美にも増えてきており、利用する若い世代も多く見られます。 民泊に訪れた若者がアフターイベントにも立ち寄ってくれました。
そうした地域外の人たちが感じうる「宇佐美らしさ」とはなんでしょうか?
観光庁が促進する「第2のふるさとづくり」プロジェクトでは「何度も地域に通う旅、帰る旅」という新たなスタイルを提唱しており、「知人・親族訪問」に近い感覚の旅の需要を掘り起こすことを目指しています。
それは人や土地への愛着と緩やかな帰属、地域からの承認を感じられる旅、つまり「暮らすように旅する」「仕事を持ち運ぶように旅する」ことができる環境、さらに言うと非日常を味わう旅ではなく、日常に補助線を加えるような旅ではないかと考えると、そこに宇佐美の潜在的な可能性を感じます。
地域の人たちにとっての「ハレ」がUsamiフェスだとしたら、「ケ」である地域や地域に住むアーティストたちの小さな日々の営みを、丁寧に地域外の人たちにも開く。
そして緩やかに地域の人と地域外の人がつながる機会の醸成と蓄積が「宇佐美らしさ」を自然と形づくる。
さらにUsamiフェスへと接続していく。
そんな将来の姿をアフターイベントで思い描くことができました。
私のような地域外の人も異物感を感じずにいられる町、それこそが宇佐美の強みになるような気がしてなりません。