むかし、智満寺の崇芸和尚さんという方が一匹の猫を飼っておりました。そのころ、人々の食糧がとぼしくなり、村人たちは自分たちの生活を心配するようになっておりました。
ある日、和尚さんは、「人間でさえ生活に苦しむ中でお前に食べ物をやるわけにはいかない。」と猫に言い聞かせ、お寺から猫を放してやることにしました。猫は、やがてうなづいて智満寺から去って行きました。
それから、何年かたちました。猫は、信濃国大河原村に住むようになりました。大河原村は、赤石岳の西方にあたる大変山深い土地で、上長尾から直線距離にして50キロメートル以上ある遠い所でした。
そのころ大河原では、名主の娘さんが亡くなって、村中の人が集まり、香松寺というお寺で、お葬式をしておりました。その時、突然空から真っ黒い雲がおりてきて娘さんの棺をつつんでしまい、むくむくと空へ昇っていってしまいました。
あまりに不思議な出来事だったので、棺を調べてみますと、中はからっぽで、娘さんは煙のように消えてなくなっておりました。葬式は大騒ぎになってしまいました。
その時、どこからともなく、猫が現れました。そして、恐れげもなく和尚さんや主だった人たちに向かって言いました。
「このままでは、娘さんも成仏できないでしょう。娘さんのなきがらを「魔もの」から取り戻す方法は、たった一つしかありません。遠江国山香庄のずっと東のはての河根と申す所に、智満寺というお寺があります。そこの和尚様の法力には、「魔もの」も、逆らうことはできないでしょう。必ず娘さんを取りもどしてくれるにちがいありません。お願いすれば必ずおいでくださるお方です。」それだけ言うと猫はその場から立ち去って行きました。
名主さんたちがさっそく智満寺へ行き、和尚さまにお願いし、休む間もなく大河原へ案内しました。大河原につき和尚さまは無言で祭壇の前へ進み、正面に着座し、静かに経を唱えました。その声は次第に高まってすみずみまでよく伝わりました。
どのくらい時間がたったのでしょうか。ふたたびもとの静けさにもどるように、お経は終わりました。不思議なことに娘さんの亡がらは、もとの姿のまま棺の中にもどっていたそうです。
そういうことがあって、大河原村の香松寺は、その時から智満寺の末寺になったそうです。
この時からかれこれ500年以上の長い間、上長尾の智満寺と信州の香松寺との交わりが続いているとのことです。
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ふじのくに
文化資源データベース
- 民話
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信州猫檀家(智満寺(川根))
所在地 | 榛原郡川根本町上長尾332 |
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URL | http://chimanji.jp/ http://www.edu.pref.shizuoka.jp/kawane-h/home.nsf/IndexFormView?OpenView (静岡県立川根高等学校ホームページ「夢ぷろ」をご覧ください。) |
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