文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。
いっぷく
vol.32
藤枝のイマココとこれからと演劇と
(プログラム・ディレクター 北本麻理)
3月5日(土)、6日(日) と初開催される『藤枝ノ演劇祭』。 プレ企画2つ参加してきました。
■スペシャル対談 演劇を通じたまちづくりの可能性
「ないものをほしがるのではなく すでにそこにあるものに気づいてみよう」
ゲスト:平田オリザさん
2022年1月28日(金) 19:00
藤枝市民会館ホール
夜、ホールは感染症対策で、半分ほどを使用できないようにしている。
それでも客席が埋まるぐらい(席と席は飛ばしながらだけど)の聴衆が集まっている。
きっとここに集まる人は、これから藤枝で始まる“演劇でのまちづくり”に、興味や関心を持っているのだろう。
あるいは、演劇祭関係者の知人、友人、隣人が誘われて、何かしら期待を込めて訪れたのかもしれない。賑やかな印象だ。
ゲストの平田オリザさんのトークが始まると、一気に会場の関心がオリザさんに集中した。
「教育」「医療」「文化」。移住先に求める上位の条件の3つを挙げることから始まり、地域について、演劇について、教育についてのそれぞれと、それぞれを組み合わせて考えることについての語りや、データに基づきながら止め処なくあふれる言葉に、ひたすらと耳を傾けていた。
コロナ感染症を鑑みて、会場との質疑応答がなかったのが残念だったが、このトークの後日に販売が始まった『藤枝ノ演劇祭』のチケットは、好調に売れたようだ。(現在も販売中です)
■みんなで創る演劇
「いま、ここ」
2022年2月27日(日) ①14:00 ②17:00
藤枝地区交流センター集会室
よく晴れて穏やかな日差しの日曜日、藤枝地区交流センターで市民参加劇「いま、ここ」が行われた。
会議室にも体操教室にもなるような部屋には、ホワイトボードに模造紙が貼られ、ピンク色のポストイットが貼られている。話し合いで出た話を整理する時に使うあれだ。その前に長机が2台。
さて、演劇が始まった。特に世代も職業も定まらない人たちが、ワイワイ話し出す。
話題は「藤枝について」。いきなり核心をつくテーマに、少し驚く。
そしてもっと驚いたのは、話題の中心が「藤枝市の広報誌」だったこと。“藤枝の文化的情報”を入手するのに、隅々まで読むという子育て中の母親。ほとんど読まないという若者たち。「だったら藤枝市公式インスタあるよ」と話はつづく。
驚いた理由は、「見つからないから探す」のか「探さないと見つからない」のかどうかはわからないが、それだけ“藤枝の文化的情報”を入手するのが難しいのか、、、と驚いたのだ。
人は“文化的情報”を、何を理由に、何を期待して求めるのだろうか。
などと勝手に考えながら、まだまだ続くワイワイを眺めていた。眺めている目に映るのは、“情報”を出し合いながら、コミュニケーションを繰り返し、世代や職業などのラベル付けを飛び越え、気を許し合い楽しそうにしている人々。なるほど。これが演劇なのだ。
ただの日常会話と言ってしまえばそれまでだが、会話劇とも少し違う。なぜならば、これを眺める「藤枝市民」は、ついついこの演劇に参加したくなるだろうなと感じたからだ。
「私もそう思う」「ここを見ればわかるよ」「こんな情報知ってるよ」などなど思い思いに言い出したくなっただろう。
そう、まさに「いま、ここ」にある演劇が“文化的情報”の集積地となったのだ。
演劇の終了後、ホワイトボードを近くで見ても良いとアナウンスされ、そこに集まる観客たち。そこからはやはり「私もつい話したくなった」「あれこれ言いたくなった」というたくさんの声が聞こえた。
見ている市民もつい参加したくなる参加劇。これが演劇だったのだ。
なんていう感想を交えながら、『藤枝ノ演劇祭』フェスティバル・ディレクターの山田さんと、実行委員でもある妻の愛さんとお話しした。
山田さんは東京からのUターンで、藤枝市にある白子商店街に劇場を構え、自らの劇団「ユニークポイント」の作品を上演するだけでなく、演劇を扱った様々なイベントを催してきた人だ。
藤枝に対する思い、藤枝でともに生活する人たちへの思い、静岡の演劇のこと、静岡で他に活躍する人たちのこと、心地よい日差しが差し込むロビーでいろいろと話した。
「あぁ、こういう人たちがいると、藤枝が面白くなるだろうな」と、その思いやりあふれる人柄と、メガネの奥の目尻の下がり具合から感じ取った。
藤枝ノ演劇祭、はじめます
演劇は、集まって議論して、試して、多くの失敗の上に成り立つ芸術です。
観客も作品を観るためには、わざわざ劇場に出かけて行かなければなりません。
部屋にいながら、いつでもワンクリックで世界中の映像が観られる時代、演劇祭をやる意味は何かと問われたら、僕はまずは、この面倒くささを挙げます。
人が動いて、手を動かして、話して、考えて、人間が人間らしさを取り戻すために演劇はある。
価値観の違う人、世代を超えた人が、力を合わせて、演劇祭を一緒に作り上げる。
私たちはひとりでは生きていけません。ぼんやりした視界の中に、人の温もりを必要とする生き物です。
藤枝ノ演劇祭が、そんな人々の「温もり」として長く続くものになるよう、ご協力、ご支援をお願いします。
藤枝ノ演劇祭フェスティバルディレクター 山田裕幸