文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。
いっぷく

vol.92
アーツカウンシルしずおか「文化芸術による地域振興プログラム」成果報告会
5年目と、その先と。
(プログラム・ディレクター 北本麻理)
アーツカウンシルしずおかが設立されて5年目の冬。
温暖な静岡県としては珍しく、県内各地でしんしんと雪が降りました。
会場とした沼津でも報告会が始まる頃には雪景色となり、到着早々車で戻らなければならない方もいらっしゃいました。
そのぐらい、“雪”が日常的ではない静岡。
「文化芸術による地域振興プログラム」での実践も、いつも見る景色が違って見えるプロジェクトのように思います。ただ、“雪”と違うのは覆い隠すのではなく、人々に備わる創造性を引き出す作用によって、これまでとは違う景色を描いているのがアートプロジェクト。実践する地を訪ね一緒に景色を見るのが一番ですが、すべてをめぐる代わりに報告会で、たくさんの景色を立ち上げたいと思いました。
アートプロジェクトの実践を通して感じたこと、苦労したこと、悩んだこと、そして探し当てた成果について、身振りや息遣いを交え伝える様は、“表現者”となり景色を描いている姿として目に映ります。もしかすると普段は裏方なので、表舞台に立つ誇らしさも存在しているかもしれません。あるいは取組を無事終えたところに、ほかの人たちの姿をみてほっとしたり勇気づけられたりしているかもしれません。
“交流したことで学びや気づきを得た”という感想が一番多いのも、この報告会の特徴です。
沼津市での開催にあわせ、沼津市および静岡県東部で地域に密着したプロジェクトを展開している方々を招き、ネットワークの網を繋ぎました。雪が降り続くなかでしたが、人と人との交わりによって生まれる熱で会場は包まれていました。
ちょうど『三島満願芸術祭』の開催時期だったので、報告会の前に主催者が「ツアー」を用意してくれました。屋外に展示されているアート作品を見て回り、水路の張り巡らされた三島の街並みを堪能することができたようです。このようなスピンオフが生まれたことも、嬉しい出来事です。
5年間の報告会や伴走支援を振り返ってみると、初期の頃は私たちも含めて、目の前のことに向き合うことで精いっぱいだったように思い出されます。けれども年に2回(キックオフミーティングと報告会)集まるなかで、悩みを相談しあえる仲間の存在を確かめ合うことで奮い立つことができました。3年目頃からは『未来』ということばを、頻繁に聞くようになりました。誰も知らない、誰にも未だ分からない『未来』に向けた準備を整えている。『未来』には期待、希望など前向きな印象を持ちますが、その印象のとおり前へ前へと進んできたと思います。そして5年目。描いてきた未来の景色の中にいまいるのか、それとも遠ざかったか、少しは近づけたのか。つかみ取れそうでつかみ取れない未来の景色。「同じ景色ではないけれども、一緒に描いていきましょう」というのが今の状態か。
変化し続ける世の中を見つめ、厳しくても留まらず行動していく私たち。
つかみ取った瞬間その手から離れていくことで、また前へ前へと進んでいくのかもしれません。
ただ、“未来の景色”には落とし穴があります。
ビジョン(像)を描くことで、未来への展望や期待を見ることができますが、
未来よりも手前に位置する「いまとこれから」を、誰かと一緒に見つめたいとき、伝えたいとき、感じたいとき、
アートプロジェクトを興すことで、何を伝えたいのか、伝えたかったのか、伝えたいことがその通りに伝わっているか。
年に一度の報告会をきっかけとして、私たちにも見つめる姿勢が必要だと感じました。