COLUMN

いっぷく

文化やアートをめぐるさまざまなこと。
アーツカウンシルしずおかの目線で切り取って、お届けします。

vol.31

「伝える」子どもはレジリエントな地域の未来を創る

(プログラム・コーディネーター 佐野直哉)

伊豆・修善寺を中心に活動を展開している、こどもローカルマガジンCOLOMAGAプロジェクトの伊豆市版「KURURA」Vol.9が昨年末に完成し、去る12月26日、修善寺に新しくできたカフェ&ゲストハウスITJ BASE Shuzenjiにて完成発表会が開催されました。

KURURAは伊豆市の小学校4年生から中学3年生までの子どもたちが、自分たちの住んでいる町を大人たちと一緒に、調べて、聞いて、まだ地元の伊豆人たちが気づいていない伊豆の魅力を伝えるために、クリエイターと一緒にコラボレーションで創るフリー情報マガジンです。

来るよね?来るでしょ!を表す伊豆地方の言葉で、vol.1製作時の小学5年生の男の子たちのチームが名付けたそうです。(クリエイターの編集講座についてのコラムはこちら

今号のテーマは「+IZU」

おしゃれなカフェや素敵な旅館は各地にあるけれど、伊豆には「それだけじゃない」“+α”があって、伊豆の自然や風土、歴史が生み出す「○○だけじゃない」スポットを紹介する第1特集。そして第2特集では子どもたちの「やっぱり自然が好き!」という想いが溢れる紙面で構成されています。

彼らもこの日に初めて完成したマガジンを渡されて、発表会前に修禅寺周辺の観光客に手渡ししてきたところでした。

私も完成したマガジンをじっくりと確認しながら、発表会では子どもたちから次々に素敵な言葉を聞くことができました。

「美味しければよし、ということからどう表現するか?匂いから伝えたい、素材から伝えたい、脳内辞書をフル活用したので達成感があった。難しい文を書くことで成長できた」

「写真を(紙面の)どこに貼るのかも自分たちで決めたのが不安だったが、(実際の冊子を見ると)よくできていたので安心した」

「例年と違ってラフづくりをやった。イメージが湧いて当日の取材がしやすかった」

自分が伝えたいな、と思ったことを客観的に伝えるために、プロの編集者、ライター、新聞記者、デザイナーから、取材場所の事前リサーチと取材ポイント、編集ラフづくり、取材の仕方、テキスト作成、写真撮影、紙面デザインなどを学んだスキルの自分なりの体感が、実際の取材で実感に変わり、完成した冊子で伝えることができた達成感になったようです。

子どもたちは異口同音に、これまで自分たちが気づかなかった伊豆の魅力に気づくことができ、伊豆が好きになったこと、そしてその魅力をKURURAで伝えることができて楽しかったことを挙げていました。

しかしこのプロジェクトで様々な気づきを得たことは、地元の魅力だけに限りません。

「好きなことを生かして仕事をしている姿を多く見ることができた。」

「取材先の人たちは伊豆のことが好き、愛が伝わってきたので、自分も好きになった。」

私は、取材先の大人が活き活きと伊豆で仕事をしている姿を見せ、それを子どもたちが感じ取ることが実は地域の活性化の近道ではないか、と考えていたのですが、ちゃんと感じ取っていたことが何よりも嬉しい!

伝えるスキルという武器を得た子どもたちは、これから様々な楽しいことや辛いことがあっても、自分が表現したい、表現できた、伝わった、という感覚があることできっと楽しさを何倍にも味わうことができ、辛さから逃げ出さず、立ち向かう勇気を持てるかもしれません。

そして地域を改めて見直し、気づき、それに誇りを持ったことで、大人になっても地域の価値を自分の言葉とやり方で伝えることができるはずです。

まさにKURURAはレジリエント(回復力のある)な地域と人の未来を創るプロジェクトではないかと思っています。

実際にKURURAでは、その活動を続けたい、と高校生が中心となって2017年から子ども編集部が作られ、編集長を中心にテーマや取材先の決定、取材のサポートや講座の司会進行を担っています。

さらに、大人で構成される実行委員会子ども編集部をつなぐ存在であり、子どもたちの身近な存在でもある伊豆周辺の大学生のコネクトチームもあります。彼らはこれまで実行委員会が担っていた役割を、年を追うごとに担うようになっています。

こうして参加した子どもたちが成長しながらプロジェクトに継続的に関わることができ、近い将来、参加した子どもが親となり、その子どもがKURURAに参加することも起こりえそうです。 そうした循環システムがある地域はきっと強いことでしょう。


このプロジェクトは現在7地域に広がっており、県内では沼津市と伊豆の国市で同様のプロジェクトが始まっています。

◼︎他地域のCOLOMAGAプロジェクト 【沼津市 内浦・西浦】 / 【伊豆の国市】

◼︎KURURA vol.9の入手方法はこちら

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